カタールW杯「オランダ代表の柱石」フィルジル・ファン・ダイク





グループリーグで苦戦する“オレンジ軍団”オランダ代表。
エース・デパイが怪我のためフル出場が難しい状況もあり、なかなか攻撃の形を作れなかった。

それでもナタン・アケらとともに鉄壁のディフェンス陣を構築するのが、フィルジル・ファン・ダイクである。
この世界最高のセンターバックと呼ばれる“オランダ代表の柱石”がチームの浮沈のカギを握る。

グループリーグの戦い

グループリーグ初戦、セネガル相手に得点には至らなかったが、ファン・ダイクは驚異の高さから繰り出すヘディングシュートでゴールを脅かす。
また、堅い守りのオランダ守備陣の要として、的確なポジショニングでシュートコースに入り失点を防いだと思えば、再三再四にわたり敵の攻撃の芽も摘んだ。

今大会のオランダの攻撃陣はさほど強力とはいえないだけに、ファン・ダイクを中心とするDF陣への重責がのしかかる。

フィルジル・ファン・ダイクとは

フィルジル・ファン・ダイクは1991年7月8日にオランダで生まれる。
ポジションはDFでありながらロングフィードにも定評があり、その正確なパスでビルドアップの役割もこなす。

だが、やはりファン・ダイクといえば、そのディフェンス能力だ。
195㎝の長身を活かした空中戦の強さは圧巻である。
また、対人戦の強さやカバーリング能力、そして大型選手にもかかわらずスピードと俊敏さも兼ね備えている。
さらに、精神力とキャプテンシーも有しており、高い戦術眼に裏打ちされた読みの深さにも舌を巻く。

こんなファン・ダイクが、プレミアリーグ史上最高のセンターバックと称されるのも納得だ。

世界最高のセンターバック

ファン・ダイクはここ数年、世界最高のセンターバックと呼ばれていた。
2018年からプレーするリヴァプールでは、所属1年目から守備陣の大黒柱としてディフェンスラインを統率する。
すると、それまで不安定だった守備陣が劇的なまでに安定した。

マンチェスター・シティの伝説にして、プレミアリーグを代表するDFだったヴァンサン・コンパニはかく語る。

「ここ数年で、ファン・ダイクが披露しているパフォーマンスはトップ中のトップレベル。プレミアリーグ最高のセンターバックである。いや、彼こそがプレミアリーグ史上最高のDFだ。チームや最終ラインにおけるインパクトについて言うならば、彼自身よりも他の選手に与える影響や全体を堅固にしていることを称えたい。ファン・ダイクが来る前と来た後のリヴァプールは、全く違うチームになった」

さらに加えると、クリーンなプレーが特徴のファン・ダイクは、ほとんどファールを犯さない。
なので、出場停止になることが滅多に無く、大事な試合はいつもピッチに立っている。
これほど、チームに有難いことはないだろう。

ところが、2020年10月のエヴァートン戦でGKと激しく交錯し、右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負ってしまう。
長いブランクから復帰を果たしたが、怪我の影響もあって以前のプレーが鳴りを潜めることも散見された。

しかし、ワールド杯を直前に控えた10月17日、マンチェスター・シティとの大一番で相手のエースストライカー・ハーランドを完封するなど、往年の輝きを取り戻しつつある。

優れた人格者

オランダといえば、数々の世界的フットボーラーを輩出してきた。
その多くが、オランダ代表の攻撃サッカーを象徴するように、ストライカーにワールドクラスが揃っている。
一例を挙げるならば、“空飛ぶオランダ人”ヨハン・クライフや“サンシーロの羽根”マルコ・ファンバステン、そして“アイスマン”デニス・ベルカンプなど枚挙に暇がない。

もちろん、DFにもロナルド・クーマンやフランク・デブール、ヤープ・スタムなど名選手に事欠かない。
だが、やはりFW陣に比べると、やや見劣りするのは否めない。
というか、そもそもオランダに限らず、どうしても攻撃の選手にスポットライトが当たるのが世の常だ。

ところが、ファン・ダイクはDFであるにもかかわらず、オランダサッカー史において間違いなく上位の評価を受ける選手なのである。
これだけでも、彼の凄さが分かるだろう。

私が初めてファン・ダイクを見た時、恵まれた体格はもちろんだが、その聡明さを感じさせる相貌が印象に残った。
屈強な黒人選手というと野性味溢れる風貌を想像しがちだが、彼に粗野な雰囲気は全く無く、その精悍な表情には高いインテリジェンスと気品が漂っている。
叙事詩に描かれる伝説の英雄か、どこかの国の第一王子に見えるのは私だけだろうか。
果たして予想通り、ファン・ダイクはフットボーラーとしての能力のみならず、優れた人格も有していた。

所属クラブ・リヴァプールの主将ジョーダン・ヘンダーソンは、ファン・ダイクを評しこう言った。

「ファン・ダイクは偉大な選手だ。ピッチ上だけでなく、ドレッシングルームにおいても素晴らしいリーダーで、信じられないほどの人物といえる。いつも笑顔で、素晴らしい心構えがあり、彼の周りにいるだけで楽しい。物事を適切に行い、模範を示してくれた彼はチームに加わった最初の瞬間から、みんなを押し上げてくれた」

プレーだけでなく、人柄も素晴らしいファン・ダイク。
そんな“オランダ代表の柱石”は不動のキャプテンとして、カタールの地でオレンジ軍団と共に躍動する。