カタールW杯決勝 アルゼンチン対フランス ~神の子が神話へと昇華した日~





アルゼンチン対フランスのワールドカップ決勝は延長戦でも3-3で決着がつかず、PK戦の末アルゼンチンが勝利を収めた。
アルゼンチンは、実に1986年のメキシコ大会以来36年ぶりとなる3度目の優勝を飾った。

ロシア大会に続く連覇を目指したフランスは、惜しくも3度目の制覇を逃した。

筋書きのないドラマ

こんな結末があるのだろうか。
野球は筋書きのないドラマというが、サッカーもまた同じことが言える。
サッカーの魅力、そして素晴らしさが凝縮した戦いだった。

結果だけ見れば延長PK戦という、さほど珍しくない試合内容であるが、そこに至るまでの過程があまりにも劇的だ。

クロアチア対モロッコの3位決定戦も素晴らしかったが、それを上回るワールドカップ史に残る激闘が展開した。

リオネル・メッシへの所感

リオネル・メッシはワールドカップを除くあらゆるタイトルを獲得してきた。
ラ・リーガ、チャンピオンズリーグ制覇のみならず、得点王やMVPなど数え出したらきりがない。
しかも、バロンドールを7度受賞すること自体、もはや意味不明である。

そして、そのプレーにはため息を禁じ得ない。
細かいタッチと独特のリズムを特徴とする、ボールが足に吸い付くようなドリブル。
DFからすると体から離れた瞬間にボールを奪いにいきたいのだが、そもそもボールが離れないのでディフェンスをしようがない。
さらに、シュートのスキル、決定機を演出するパスの精度も申し分ない。
全盛期に比べ、ややスピード・キレともに翳りが見えつつも、とても35歳とは思えぬプレーを続けている。
多くのサッカー界のレジェンド達が史上最高にして唯一無二のフットボーラーに挙げるのも、ある意味当然なのかもしれない。

メッシといえば、私は10代の頃を思い出す。
まだ少年の面影を残しながらも、賢そうな顔立ちが印象的だった。
だが、若くして無理に大人になった雰囲気も感じた。

いや、大人にならずにはいられなかったのかもしれない。
10代前半から祖国を離れ、スペインの名門FCバロセロナのカンテラに身を置いた。
慣れない環境に馴染めずホームシックにもかかるなど、言葉にはできない苦労もあったことだろう。
こんな艱難辛苦の日々が、メッシに子どもでいることを許さなかったのだろうか。

それから時を経て、髭を蓄え、タトゥーだらけの姿を見た私はその変貌ぶりにとても驚いた。


リオネル・メッシ(MESSIGRAPHICA)

決勝戦

前半の45分間と後半30分過ぎまではアルゼンチンが圧倒し、2-0とリードする。
その原動力となったのが、左サイドで起用されたディ・マリアである。
先制点のPKはディ・マリアのドリブル突破がもたらし、追加点のゴールも彼の左足が生み出した。
修羅場を潜った34歳のベテランは、卓越した個人技でチームを牽引した。

また、アルゼンチンはデ・パウルを中心に中盤で厳しいチャージを続け、次々とボールを奪取する。
攻守の要グリーズマンにも、ほとんど仕事をさせなかった。
何よりリードしても決して守りに入らず、闘志を全面に押し出し攻撃の手をゆるめない。
世界王者に輝いたアルゼンチンは、メッシだけのチームではないことを証明した。

だが、フランスもディフェンディングチャンピオンの意地を見せる。
後半35分、PKのチャンスにエムバペが冷静に決めた。
さらに直後の後半36分、またもやエムバペが起死回生のダイレクトボレーをゴールに叩き込む。
時間が無い中で、あっという間に同点に追いつくフランスの底力。

PKの時もだが、このプレッシャーがかかる場面でスーパーゴールを決めるエムバペは世界最高の選手といえるだろう。
それにしても、ジルーとデンベレ、そしてグリーズマンという攻撃の主軸を交代させたデシャンの采配には畏れ入る。

押せ押せのフランスの猛攻を何とか凌ぐアルゼンチン。
2-2のまま、延長戦に突入した。

延長後半3分、メッシが値千金のゴールを決める。
利き足と反対の右足でゴールに押し込んだ、まさにメッシの魂が籠ったシュートだった。
さすがに、誰もが勝負ありと思ったに違いない。
気の早い人などは、残り時間はメッシのビクトリーランに感じたかもしれない。

ところが、勝負は筋書きのないドラマとはよく言ったものである。
終了間際の延長後半12分、エムバペのシュートが相手DFの肘に当たり、土壇場でPKのチャンスが訪れた。
この痺れる場面で、再びエムバペがゴール隅に決めた。
これでまたもや同点である。

そして、ホイッスルが鳴り、勝負はPK戦に委ねられた。
先行のフランスの1人目は、この日ハットトリックを達成したエムバペだ。
三度同じコースに蹴り込み、ゴールネットを揺らす。
この23歳の若者には、どうやら重圧の二文字は無いらしい。

後攻のアルゼンチン。
先陣を切って登場するのは、やはりこの人!リオネル・メッシである。
痺れるような緊張感の中、GKの動きを冷静に見ながら余裕を持って成功させる。
私は、もしメッシが外すと実際のビハインド以上に、アルゼンチンは窮地に陥ると思っていた。
それほどまでに、アルゼンチン代表にとってメッシという存在は絶対だからだ。
勝負の行方を左右する分水嶺で、エースの役目を果たすメッシはさすが千両役者である。

そして、アルゼンチンの守護神マルティネスがフランスの2人目のPKをセーブする。
フランスは続く3人目も失敗したのに対し、アルゼンチンは4人とも決め、ワールドカップ優勝を成し遂げた。

やはり、この試合は大会MVPを受賞したメッシが印象に残った。
普段はほとんど守備をしないのに、決勝ではルーズボールにも体を張って奪いに行くなど、今大会随一の献身的なプレーを見せる。
決勝のメッシには自身初となる、ワールドカップ制覇への一方ならぬ想いがほとばしっていた。


キャプテンメッシの挑戦

まとめ

試合終了後、マクロン大統領がピッチに降り、エムバペを慰めるシーンがあった。
一国の大統領が選手を労う姿に、ワールドカップという大会の重みを痛感させられた。

感動の優勝セレモニーのフィナーレで、“キャプテン”リオネル・メッシにワールドカップトロフィーが手渡される。
メッシが栄光のトロフィーを掲げた瞬間、自身の悲願、そして世界中のサッカーファンの願いが結実した。

そして今、“神の子”は神話へと昇華した。

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