“ゴルフの祭典”2022マスターズ 「タイガー・ウッズが帰って来た日」





今年もゴルフのメジャー初戦、「ゴルフの祭典」マスターズの季節がやってきた。
今大会は、25歳のスコッティ・シェフラーが初優勝を飾る。
今年2月にツアー初優勝を果たすと、あれよあれよという間に3勝し、世界ランキング1位に上り詰めての戴冠だった。

連覇がかかる松山英樹は首から肩甲骨にかけての怪我を抱える中、2日目を終えた時点で2位タイの好位置につけた。
前週の試合でも途中棄権するなど本調子とはいかないものの、絶妙のアプローチショットで凌ぐプレーぶりは、さすがディフェンディングチャンピオンだ。
結局、3日目にスコアを崩し、+2の14位タイでフィニッシュした。
連覇とはいかなかったが、この状態で出来るベストのプレーだったのではないか。

だが、数々の名場面を繰り広げたマスターズトーナメントにおいて、大会の主役はこの人をおいて他にいないだろう。
そのゴルファーとは、タイガー・ウッズである


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大怪我を乗り越えて

2021年2月、タイガー・ウッズは自動車の横転事故を起こし、右脚を粉砕骨折した。
当初、ゴルフへの復帰の目途は全くたたず、自力で歩くことを目標にするほどの状態だった。

ウッズは語る。
「これまで膝と腰に10回メスを入れてきた経験からも、リハビリが長引くことは覚悟している。だが、これまでにない痛みを伴っている」

それはそうだろう。
なにしろ右足を切断すべきか真剣に議論されたほどの重症であり、「生きていられて、手足があることが幸運だ」という大事故からの生還だったのである。

3週間の入院後、自宅で寝たきり生活を3ヵ月過ごした。
ベッドから起き上がれるようになると、車椅子の生活に移り、松葉杖を使えるようになる。
そして、リハビリを開始してから、1日も休むことなき努力の日々を送った。

この苦しい時間を乗り越えられたのは、今は亡き父・アール氏の教えだったという。
「父は軍の特殊部隊にいた。銃撃戦が始まると、いつまで続くか分からない。数時間かもしれないし、何日も続くかもしれない。いつ終わるか分からないということが最も難しい部分だが、父は食事と食事の間を生きることを意識した。朝食から昼食までやり抜いたら、次はそこから夕食まで頑張る。“9ヵ月も地獄が続く”と考えるのではなく、自分の視野をその2、3時間に狭くする。それが1週間となり、1ヵ月となり、今こうして歩いて、話せるようなところまで積み上がった」

そして、ウッズは今後の展望について語った。
「ツアーにフル参戦することは難しい。かつてのベン・ホーガンのように、年間数試合を選んでプレーすることが現実的だと思う。不幸な現実ではあるが、それが現実だと理解しており、受け入れている」

感慨深いカムバック

かつて、ウッズと鎬を削ったアーニー・エルスが語っていた言葉を思い出す。
「我々は、タイガーに感謝しなければならない。タイガーがいるおかげで、どれだけ風除けになっていることか」

世界のトップゴルファーともなれば、ファンやマスコミから良くも悪くも注目を集める。
そのプレッシャーたるや、想像を絶するものがあるだろう。
だが、タイガー・ウッズという絶対的スーパースターが存在することにより、本来自分たちが受けるはずのプレッシャーが軽減されていると言うのだ。

その後、ウッズは一大スキャンダルに見舞われた。
たしかに、その内容は道義的に褒められたものではなく、これまで築き上げた名声は霧散した。
もちろん、私も失望したことは否めない。
と同時に、あのエルスの発言を思い出しもした。
あの言葉の重みは計り知れない。

それ以降、度重なる腰や膝の故障もあり、メジャー制覇から遠ざかっていた中での2019年のマスターズ制覇だった。

今回のカムバックは、その優勝と比べても勝るとも劣らないほど感動した。
もう二度とタイガー・ウッズの勇姿を見ることができないと、今度ばかりは諦めていたからだ。

オーガスタに戻って来た日

日本時間の2022年4月8日0時4分、世界中が待ち焦がれた男がオーガスタの1番ホールでティーオフした。
かつて「ゴルフの祭典」で5度グリーンジャケットを着たタイガー・ウッズである。

2020年11月に開催されたマスターズ以来となる、508日ぶりのツアー復帰だった。
あの再起不能と言われた大怪我から、1年余りで復活するとは…。
決して冷めることなきゴルフへの情熱に、感無量の思いが込み上げる。

初日、2日目は強風が吹く難しいコンディションとなる。
だが、ブランクも何のその、初日はー1で10位タイと好発進を見せた。

「いい日ばかりではないことは分かっている」

そう語るウッズの2日目は、最初の5ホールで4つボギーが先行する苦しい展開となる。
グリーン上でラインを読む時も、怪我の影響で屈むことができず中腰の態勢にならざるをえない。
ショットも一打一打に制約がかかる。
時折、痛みで顔を歪ませる姿に厳しい状態が窺えるが、ウッズは精一杯のプレーを続けた。
こんな状態で、初日アンダーパーで回っていたとは…。

「ゴルフをすることよりも、オーガスタを歩くことの方がチャレンジなんだ」

こう語ったウッズは、随所に全盛期を思わせるスーパーショットを見せつける。
2日目の15番ロングホール第2打。
多くの選手がセカンドショットを刻む中、ままならぬ足を必死に動かしてツーオンに果敢に挑んでいく。
惜しくもグリーンは外したが、十分過ぎる位置につける気迫のショット。
あの体の状態で、なんというナイストライなのだろう。
どんな時も、攻めの姿勢を貫くタイガー・ウッズに感銘を受けずにはいられない。 

そして、トータル+1で見事に予選通過を果たす。

3日目は強風のみならず、気温10度を切る季節外れの寒さの中でのプレーとなる。
足だけでなく何度もメスを入れた腰にも爆弾を抱えるウッズには、さらに厳しいコンディションとなった。
苦しいプレーを強いられるも、世界で最も難しいショートホールといわれる12番でバーディを奪うなど、この日もギャラリーを沸かせた。

足を引きずる姿も見られたが、タイガー・ウッズの闘志は衰えない。
「絶対に諦めない。夢を追いかける姿を見せたい」

最終日、この日も前日同様、自己ワーストとなる78の+6のラウンドとなった。
しかし、花道を歩くタイガー・ウッズは白い歯を見せ、ギャラリーの歓声に笑顔で応えている。
素晴らしい光景だった。
私には、優勝のシーンよりも感慨深かった。

「ファンの応援が励みになった。感謝の言葉しかない」 

そして、タイガー・ウッズは噛みしめるように続けた。
「こうして、またゴルフをできることが何よりも嬉しい」

オーガスタの4日間、誰よりも大きな声援を受け続けた不屈の名ゴルファーは、柔らかな中にも充実した表情を湛えていた。


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まとめ

最終18番ホール。
同じ組で回るローリー・マキロイとコリン・モリカワのメジャーチャンピオン二人が、立て続けにバンカーからチップインバーディを決めた。
パトロンたちの熱狂ぶりが、千両役者ぶりを物語る。
そして、メジャーチャンピオンの凄さ、マスターズという大会の素晴らしさを改めて痛感した。

こうした名手たちが集う「ゴルフの祭典」には、タイガー・ウッズという稀代のゴルファーの存在が欠かせない。

志あるところに道は必ず切り拓ける。
そんなことを思わせてくれたタイガー・ウッズの4日間の挑戦だった。

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