“ゴルフの祭典”マスターズⅡ ~90年代の素晴らしき勝者たち~




先日、ついに松山英樹が日本人初のマスターズチャンピオンに輝いた。

マスターズが開催されるオーガスタ・ナショナルゴルフクラブは、全てのゴルファーにとって憧れの舞台である。
それは、4大メジャー大会の優勝者や各ツアーの賞金王をはじめとする賞金ランキング上位者など、主催者から招待を受けた名手達(マスターズ)しか出場できないからだ。
全米オープンや全英オープンがマンデートーナメントと呼ばれる予選を勝ち上がれば、誰でも出場できるのとは趣を異にする大会なのである。

それに輪をかけて、世界中のゴルファー達に憧憬の念を駆り立てるのは、“球聖”ボビー・ジョーンズが創設したコースというのも挙げられる。
ボビー・ジョーンズは1930年に、全英アマ、全米アマ、全英オープン、全米オープンを全制覇した伝説のゴルファーである。
若い頃の悪童ぶりを改め、「ゴルフこそ紳士のスポーツ」という信念を掲げ、誰からも愛され尊敬される名ゴルファーへと成長していく。

こうした逸話を持つことから、“球聖”と名付けられたのだ。
このボビー・ジョーンズが心血を注いで造り上げ、その精神が継承されたコースをラウンドしたいと思うのは当然であろう。

だからこそ、マスターズが「ゴルフの祭典」と呼ばれるのだ。

97年大会

この年のマスターズは、新たなゴルフ界の幕開けとして鮮烈な印象を残す大会となる。
それは、タイガー・ウッズがプロ転向後初となるマスターズにおいて異次元のゴルフを展開し、全ゴルファーに衝撃を与えたからに他ならない。
その時、ウッズはまだ21歳の若武者にもかかわらず…。

初日の前半9ホールは4オーバーの40という不調に喘ぎ、予選通過すら危ぶまれていた。
ところが、後半に入ると前半とは別人のようにバーディラッシュが訪れる。
後半は6アンダーの30で回り、結局初日は2アンダーでラウンドを終えた。

一緒に回ったのはディフェンデングチャンピオンのニック・ファルドであったが、ウッズのこれまで見たこともないようなドライバーショットの飛距離や弾道に圧倒され、調子を崩し予選落ちの憂き目にあってしまう。
何しろティーショットを打ち終わった段階で、毎ホールのように自分よりも数十ヤード以上先にウッズのボールがあるのだから…。
ある意味、完全にノックアウトされた形となった。

タイガー・ウッズは2日目も6アンダーの66、3日目も7アンダーの65で回り、通算15アンダーで完全に独走態勢に入った。
もはやライバルはなく、後はコースレコードを更新できるかどうかが焦点となる。

最終日も終始安定したゴルフで、3アンダーの69で回り通算18アンダーでフィニッシュした。
これまでニクラウスらが記録した17アンダーを1打上回り、最小スコア記録を更新する。
おまけに、2位に12打差をつけたのも新記録であった

普通、これだけの独り旅になると大会の興が削がれるのだが、タイガー・ウッズという新星の誕生に世界中が熱狂した。
かくいう私も、タイガー・ウッズの今まで観たことのないショットの連続に、興奮しっ放しだったことを覚えている。

最終18番ホールでウインニングパットを決めた後、父アール氏と交わした抱擁の場面は観る者の胸を熱くさせた。

こうして、タイガー・ウッズはゴルフ界に革命を起こしたスーパースターへの階段を駆け上がっていくのであった。

98年大会

この大会の覇者はマーク・オメーラだった。
最終日、首位をゆくフレッド・カプルスから2打差でスタートし、67の5アンダーで回り見事逆転優勝を果たす。
しかも、1打ビハインドの17番でバーディを奪い追いつくと、18番でもバーディパットを沈めるという土壇場での勝負強さを見せつけたのである。
オメーラは、栄えあるマスターズの歴史にその名を刻んだ。

だが、プレーの内容以上に思い出深いのは、マーク・オメーラという苦労人が優勝したことだろう。
オメーラはプロデビュー後、着実にPGAツアーで実績を残してきたが、どうしてもメジャータイトルには手が届かなかった。

そんな中、41歳にして初のメジャータイトルを獲得する。
しかも、それがマスターズという栄光の大会だったのだから、感慨もひとしおに違いない。
勢いに乗ったオメーラは同年、全英オープンでも優勝するなど、98年で最も輝いたゴルファーとなる。

実は、オメーラはタイガー・ウッズの最も良き友人としての顔も持つ。
年齢でいえば20歳近くも離れており、白人のオメーラと黒人のタイガー。
年齢も人種の壁も越え、友情を深めていくふたり。

そんなふたりの付き合いが始まったのは、まだタイガー・ウッズが世界的スーパースターになる前の話である。
フロリダにあるオメーラの家の近所にウッズが越してきたのは、97年にウッズがマスターズで優勝する前だった。
オメーラが100mも離れていない家に住むウッズを夕飯に招待するなど、徐々に交流を重ねていく。
時には、若いウッズに対し、プロとしての心得をはじめとする様々なアドバイスも送っていた。
こうして、ウッズがオメーラの人となりに接するうち、兄と慕うようになるのに時間はかからなかった。

ウッズは語る。
「オメーラにはメディア対応など、コース外のことまで助言を受けた。彼の助けなしでは、こんなに早く成功することはできなかった」

そんなオメーラが、オーガスタで悲願のメジャー初制覇を成し遂げたのである。
きっと、タイガー・ウッズは我が事のように喜んだことだろう。

マスターズの表彰式では、前年度のチャンピオンが優勝者にグリーンジャケットを着せるという決まりがある。
パトロンの大歓声の中、ついにマーク・オメーラがグリーンジャケットに袖を通す瞬間がやって来た。

聡明な皆様なら、もうお分かりだろう。
そう!前年のチャンピオンは何を隠そう、タイガー・ウッズなのだ!
22歳のウッズが、親友にして恩師たる41歳のマーク・オメーラにグリーンジャケットを着せたのである。

オメーラの相好を崩した表情が、喜びの大きさを物語る。
だが、それはマスターズを制覇した感激だけではないはずだ。
良き隣人にして親友のタイガー・ウッズと共に、グリーンジャケットの感触を味わえたからこそ、より格別な瞬間になったのではないか。

こうして、「遥かなるオーガスタ」の地で素晴らしき大会は幕を閉じるのであった。

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