“ゴルフの祭典”マスターズ ~松山英樹 悲願のメジャー初制覇への道~ 前編




男子ゴルフ4大メジャー大会の1つ「マスターズトーナメント」が現地時間の4月8日に幕を開けた。
例年4月に開催される“ゴルフの祭典”だが、昨年はコロナウイルスの影響で11月に行われた。
感染が広がる中、よくぞ開催にこぎ着けたと感慨深くテレビ中継を観ていたことを思い出す。

しかし、やはり「マスターズ」は4月に行われてこそ、本当の素晴らしさがあるのだと改めて痛感した。
ジョージア州オーガスタにあるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの4月は、花々が咲き誇り、眩しいほどの新緑が生命に満ち溢れ、まさに春爛漫を感じさせる1年で最も美しい季節といえるだろう。
その美しいコースを背景に流れるマスターズのテーマ曲『Augusta (オーガスタ)』のどこか郷愁を誘う調べ。

世界で最も栄誉ある大会“ゴルフの祭典”マスターズは、素晴らしいコース、素晴らしいテーマソング、そして何よりも素晴らしい名手達(マスターズ)が揃ってこそなのだ。

松山英樹の快進撃

毎年、私はマスターズという“ゴルフの祭典”を何よりも楽しみにしているのだが、今年は少し興を削がれていた。
それは、タイガー・ウッズが自動車事故による大怪我で、出場しないからである。
このことを残念に思うのは、私だけではないだろう。

そんな中、大会を盛り上げた最大の要因は、我らが日本人の代表・松山英樹をおいて他にないだろう。

日本人選手のメジャー大会制覇に最も近づいた瞬間は、1980年の全米オープンだった。
“帝王”ジャック・ニクラウスと“世界のアオキ”こと青木功が一騎打ちで優勝争いを演じ、惜しくも青木は2位に甘んじることとなった。
過去のマスターズにおいても、松山英樹自身が5位、片山晋呉と井澤利光が4位と健闘を見せるも、世界の名手達の前にグリーンジャケットを着るには至らなかった。

このように日本人選手にとって未だ高い壁であるメジャー大会にあって、松山は3日目を終え、11アンダーと首位に立つ。
しかも、2位に4打差をつけている。

否が応でも、初のメジャー制覇への期待が高まるのは当然のことだろう。
しかも、「マスターズ」という格別の大会でのことなのだ。



初日~3日目

大会初日、松山英樹は3アンダーの2位タイと絶好のスタートを切った。
首位は7アンダーをマークしたジャスティン・ローズで4打差をつけられたが、ローズのプレーが良すぎただけである。
まだ始まったばかりであり、勝負はこれからだ。

松山自身のプレーは非常に安定感があり、心技体の充実ぶりが窺える。
このまま好調をキープすれば、優勝争いに食い込めるのではないか。

2日目は序盤から苦しいゴルフを強いられるが、13番でイーグルを決めるなど後半追い上げた。
だが、スコアを1つしか伸ばせず、トータル4アンダーの6位タイまで順位を落とすも、トップのローズもスコアが伸びず7アンダーでプレーを終了する。
つまり、順位こそ落ちたが、スコアだけ見れば1打縮めたのである。
4日間の全てで好調なプレーをするのは難しく、いかに苦しいラウンドを辛抱してスコアをまとめられるかが鍵となる。
そういう意味では、今大会の松山には期待がもてると感じた。

そして、3日目。
10番ホールまでは1打しか伸ばせずにいた。
11番でテイーショットを大きく曲げたところで、雷雨により77分ものプレー中断を余儀なくされる。

しかし、この中断を境に松山の快進撃が始まる。
右の林の方角に飛んで行った第1打は林を突き抜けたことで、却ってグリーンが見える条件が良い場所にボールが止まっていた。
実は、その場所は林を抜けた先に存在する秘密のルートであり、2019年にタイガー・ウッズが奇跡の復活優勝を遂げた際にも、そこから第2打をグリーンに乗せてパーセーブを果たしたのだ。
このプレーにちなんで、テレビ解説の中島常幸は、“タイガーコース”などと呼んでいる。

その“タイガーコース”から放った松山のセカンドショットは、見事にグリーンを捉えた。
まさに起死回生のスーパーショットといえるだろう。
そして、バーディパットも沈めて、完全に流れに乗った。

この11番は、非常に大きなプレーとなったのではないだろうか。
テイーショットを打った瞬間、松山はトラブルホールを覚悟したはずだ。
それが、大きく曲げ過ぎたことで、逆にチャンスホールとなったのだ。
何という幸運だろうか。
だが、運を味方に付けない限り、世界の強豪が鎬を削るメジャーを制することは難しい。

続く12番ホールでもバーディパットを捻じ込むと、13番でイーグル、14、15番ではバーディを奪い、あっという間に首位に立つ。
アナウンサーの「松山英樹が止まらない!」という言葉が、ゾーンに入ったプレーぶりを物語る。

そして、迎えた最終18番ホール。
せっかくの流れも、ここをミスで終えると明日の最終日に悪影響を及ぼしかねない。

ところが、危惧していたことが起こった。
まず、テイ―ショットをバンカーに入れてしまう。
第2打もアドレナリンが出過ぎて、グリーンを大きくオーバーしてしまったのである。
何度もマスターズに出場し、オーガスタを知り尽くす中島常幸をして「このアプローチは本当に難しい。最高のショットをしても2mに寄せるのが限界だ」と言わしめるほど、大ピンチに見舞われる。

しかし、松山はこともあろうか、ピンそば数十㎝に寄せてしまう。
この大一番で見せた松山英樹のミラクルショットに、中島常幸も脱帽した。

結局、この日だけで7アンダーの65で回り、トータル11アンダーの首位に立つ。

最終ラウンドに、悲願のメジャー初制覇へと挑むのであった。

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