北京オリンピック名勝負⑫ 「女子団体パシュート」 涙に暮れたチームの絆




北京オリンピック大会12日目、女子団体パシュートが行われた。

平昌オリンピックで圧倒的な力を世界に示した日本は連覇を目指し、本大会にもエントリーする。
日本は素晴らしい戦いを演じたが、最後の最後でまさかの結末が待っていた。

日本の奮闘の模様を振り返る。


1回戦・準決勝

2月12日に1回戦が行われ、日本は中国と対戦する。
出場するのは髙木美帆・菜那姉妹と佐藤綾乃で、控えに押切美沙紀がまわった。

もちろん、相手に勝つこともだが、1回戦はタイムが重要となる。
今大会、日本・オランダ・カナダが3強を形成し、出来れば決勝までこの両チームとは戦いたくない。
準決勝は1回戦のタイムを基に、1位と4位、2位と3位のチームが対戦する。
つまり、1位を取れば力が落ちるチームと対戦できるので、決勝に余力を残せる。
だが、仮に2位以下になると、強豪カナダもしくはオランダとの対戦が濃厚となってしまう。
なので、是が非でも1位を取りたいところである。

こうしたこともあり、日本は格下の中国相手だが、1回戦からエンジン全開で試合に臨む。
スタートから快調に飛ばす日本は、いきなりオリンピック新記録を樹立する会心の滑りを見せた。

オランダとカナダも順当に勝ち上がったが、日本のタイムを上回れず1回戦を終える。
だが、2位カナダとは0秒36の差しかない。
髙木菜那がレース後に語っていたように、力を出し切った滑りをしても、この差しかつかなかったのである。
当面の目標はクリアできたが、当然ながら楽観はできない。

2月15日に準決勝と決勝が行われた。
日本の準決勝の相手はロシアである。
序盤から日本はリードを奪うと、中盤にかけてさらにその差を広げていく。
日本がセーフティリードをとると、ロシアはこの後の3位決定戦に体力を温存すべく、ペースを緩め白旗を上げる形となった。

地力に差のあるロシアと対戦できたことにより、日本も後半ラップを落とせたのは大きい。
何しろ2時間後にもう一度、2400mの距離を決勝で滑るのだ。
少しでも、余力を残したいところである。

決 勝

金メダルをかけて戦うのは、オランダを倒したカナダである。
オランダは1500mで髙木美帆を破ったイレーン・ビュストをはじめ、個人の力だけを見ればNo.1のチームであった。
しかし、この結果は順当といえる。
カナダは今季ワールドカップで3戦3勝の優勝候補筆頭なのである。
4年前とは大きく勢力図が変わっているのだ。

運命の決勝が始まった。
まず先頭を走るのは、エース・髙木美帆である。
スタート直後だというのに、早くも美しい隊列を組む日本。
カナダも高いチーム力を誇るが、この辺の日本の緻密さは群を抜いている。
最初の200mの入りで、いきなり0秒93リードする日本。
そして、1周目(400m)を通過すると、さらにリードを1秒05差に広げた。

しかし、ここから強いのがカナダなのである。
準決勝のオランダ戦でも、最初の1周はリードを奪われたが、そこから盛り返して逆転した。
案の定、日本相手にも2周目以降はジワジワと差を詰めていく。
3周目を通過した時点で、1秒以上あった差が0秒59まで詰められて来た。

4周目に入り隊列を組みかえ髙木菜那が先頭を引っ張ると、日本が再び0秒86まで差を広げた。
中盤以降に強いカナダを相手に、ここでの髙木菜那の頑張りは非常に大きい。
4周目が終わり、日本はラスト2周に突入する。
ここからは、エース・髙木美帆が先頭を引っ張り、日本は逃げ切りを図る。

ところが、やはり世界ランキング1位のカナダは、このままスンナリと逃がしてはくれない。
残り600mで0秒65、残り400mで0秒39、残り200ではm0秒32と、ひたひたと日本の背中を追って来る。

両チームとも足に乳酸が溜まり、後は気力の勝負である。
団体パシュート史に刻まれるであろう、デッドヒートを繰り広げる日本とカナダ。
最高の舞台、そして最高のメンバーで争うレースは、まさに頂上決戦と呼ぶにふさわしい。

しかし、最終コーナーに差し掛かった場面で、日本に悲劇が襲う。
なんと!髙木菜那がバランスを崩し、転倒してしまったのだ!
こんなところに“まさか”という坂があるとは…。

その間隙を縫って、カナダはゴールになだれ込む。
喜びを爆発させるカナダのメンバーたち。

一方、髙木菜那は起き上がり、最後まで滑り切りゴールした。
膝に手をつき、ガックリとうなだれる姉・菜那を出迎える妹・美帆。
号泣する髙木菜那の姿は、あまりにも痛々しい。
その姉の肩を優しく抱く髙木美帆。

観ている私は目の前で起きた出来事に、頭がついていかない。
わずかとはいえ、リードしていただけに、無念の思いのみが込み上げる。
だが、選手たち、特に髙木菜那の悔しさは私ごときの比ではない。

それにしても、結果は残念だったが、素晴らしいレースだった。
今シーズン、無敗のカナダをここまで追い詰めたチーム日本。
五輪本番で見せた、乾坤一擲の滑りには感動を禁じ得ない。

まとめ

髙木菜那の転倒シーン。
長野オリンピックのスピードスケート男子500m金メダリスト・清水宏保によると、氷の溝に左足が嵌まっての転倒だという。
その解説を聞き、私は合点がいった。
たしかに、スピードスケート選手の通常の転倒とは異なるような感じで、大きくバランスを崩していたのだ。
もし、そうであるならば、なんとも不運である。

しかし、髙木菜那は全く言い訳をしなかった。
その姿は潔く、日本人らしい魂を感じる。

そして、カナダに追い上げられた苦しい中盤、先頭で引っ張りリードを広げた立役者が髙木菜那だった。
その頑張りにより最後足にきて、踏ん張り切れなかったのかもしれない。
いずれにしても、カナダの強烈な追い込みがプレッシャーになったことだけは確かだろう。

この4年間、団体パシュートでは様々な新戦法が編み出されてきた。
日本もそのムーブメントに追従し、試行錯誤を繰り返す。
だが、最終的に従来の戦い方へと回帰して挑んだオリンピック。

レース後、チーム全員で肩を組みながら円陣を組む姿が印象に残る。
敗れはしたが、素晴らしいチームワークの日本は誇らしい。

勝負は時の運。
そんな言葉を思い出す名勝負だった。

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