NHK杯フィギュアスケート男子シングル 宇野昌磨の復活





グランプリシリーズ第4戦NHK杯は、女子シングルで坂本花織が2連覇を達成し、男子シングルでは宇野昌磨が3年ぶり2度目の優勝を果たした。
これで、両選手ともグランプリファイナルの進出を決めた。

とりわけ、宇野はここ数年スランプに陥っていた中での勝利であり、内容的にも久しぶりに彼らしいスケーティングを見せ、完全復活といえるだろう。

今回は、宇野昌磨を中心に男子シングルの戦いを振り返る。

宇野昌磨 苦難の道のり

平昌オリンピック以降、宇野昌磨の道のりは厳しかった。

五輪翌年はまだしも、2019-2020シーズンは本当に苦しかったことだろう。
そのシーズンから海外を拠点にすることも睨み、宇野はコーチなしで活動を始めた。
ところが、フランス国際でシニア転向後最低となる8位となってしまう。
当時の宇野の悲痛な表情は、見ているこちらまで辛くなった。

そんな宇野に一筋の光明が射す。
ステファン・ランビエールとの出会いである。
見るからに穏やかそうな物腰のランビエールに師事することにより、リンクを滑る楽しさや喜びが甦ったのだ。

次戦、モスクワで行われたグランプリシリーズでは4位と本来の出来ではなかったが、明らかに前回とは雰囲気が異なっていた。
それ以来、宇野は屈託のない笑顔を頻繁に見せるようになる。

そうして迎えた今シーズン、無邪気で憎めない宇野昌磨が苦渋を味わったことにより、人間的に一回り成長したように感じるのは私だけだろうか。

ショートプログラム

今大会の男子シングルはアメリカ大会で首位と2位を分け合った、ビンセント・ジョウと宇野昌磨の一騎打ちの様相を呈した。

ビンセント・ジョウは平昌オリンピックで6位になると、翌年の世界選手権では18歳の若さで銅メダルを獲得する。
当時から、現行跳ばれている最難度の4回転ルッツをタノジャンプで決めるなど、成長著しいホープであった。
それ以来、久方ぶりに見るジョウは当時のまだ幼さが残る相貌とは異なり、すっかり青年の雰囲気を漂わせていた。

ジョウは、冒頭の4回転ルッツと3回転トウループのコンビネーションジャンプを完璧に着氷する。
GOE(出来栄え点)もプラス3以上の加点がつき、なんと1回のジャンプで19点以上の得点を叩き出す。
それにしても、4回転ルッツにコンビネーションジャンプを付け、あれだけの精度で跳ぶのだから驚異的である。
だが、その後の4回転サルコウとトリプルアクセルで、いずれも1/4回転不足を取られてしまう。
これが響き100点越えはならなかったものの、99.51点とハイスコアをマークした。

宇野は最初のジャンプ4回転フリップを華麗に決め、流れに乗る。
4回転トウループとのコンビネーションジャンプが、2回転になってしまった以外はノーミスの滑りでフィニッシュした。
技術点では全てのジャンプで大きく加点をもらうなど順調に得点を伸ばし、演技構成点も50点満点で46.03点と全選手中トップの演技を見せた。
ショートプログラムの102.58点は、もちろん首位である。

宇野はジョウに約3点差をつけて前半を終了した。

フリープログラム

ショート2位発進のビンセント・ジョウは4回転フリップこそ成功させるも、その他のジャンプはことごとく、すっぽ抜けや回転不足で得点を伸ばせない。
特に冒頭の4回転ルッツが1回転ジャンプになってしまったのが痛かった。
フリーの順位は6位に沈むも、ショートの貯金が効いて何とか2位で大会を終える。

そして、いよいよ最終滑走者として宇野昌磨が登場する。
当面のライバルであるジョウが大きく失速したこともあり、点数的には気楽に滑れる場面となった。

4回転ジャンプが2回転になったり、コンビネーションジャンプが付けられなかったりもしたが、息の入らない難しいプログラムをまずまずの出来で滑り切る。
これからプログラムの精度を上げ、磨きをかけていければ、グランプリファイナルやオリンピックでも表彰台の一番高い場所も夢物語ではなくなった。
何よりも、スケートを心から楽しんでいる姿が印象的である。

両選手のプログラム構成を見て思うのは、本当に難易度が高いということだ。
7本のジャンプのうち5本が4回転ジャンプなのである。
しかも、4種類のバリエーションで跳び分け、トリプルアクセルも組み込むのだから、さぞかし負担が大きいに違いない。

オリンピック本番まで、怪我なく無事に乗り越えて欲しいと思う。

まとめ

優勝インタビューに明るい笑顔で臨んだ宇野昌磨は、今大会の課題・反省点を振り返りながらも、手応えを感じている様子が窺えた。

「この数年間、表彰台に上がることさえ出来ないシーズンが続いていたが、ようやくこのNHK杯を機に、再び僕が世界のトップで競い合う存在になれました。本当に皆さんに沢山のご心配をおかけし、支えてもらえたおかげで今の自分がいると思います」

宇野の感謝の言葉に、観客席から万雷の拍手が鳴り響く。
そして、私は、続く宇野昌磨のコメントに感銘を受けた。

「いつか観客のみなさんも選手が素晴らしい演技を見せた時、たくさんの声援を上げることのできる、そんな日常が戻ってくることを願っています」

選手たちはコロナ禍で大変な思いをしてきたはずであり、宇野とて例外ではないはずだ。
にもかかわらず、オリンピックシーズンの厳しい戦いに身を置きながらもファンに思いを巡らせ、共に喜びを分かち合いたいと願う宇野昌磨に、人としての成長を見た思いがする。

これで、宇野昌磨にビンセント・ジョウ、ネイサン・チェンの3名がグランプリファイナルの進出を決めた。
12月9日に開幕する、決戦の舞台は日本の大阪である。

羽生結弦が出場できないのは残念だが、北京オリンピックを占う大一番には、ますます目が離せない。

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