忘れ得ぬ名馬②「聖剣」デュランダル ~ローランの歌に約束された末脚~





21世紀に入って間もなく、フランスの叙事詩「ローランの歌」に登場する聖剣の名にちなんだ、一頭のサラブレッドがターフに現れた。
その名をデュランダルという。

入れ替わりの激しい短距離馬の世界において、2年連続でJRA最優秀短距離馬に輝くなど、息長く活躍した名馬であった。

デュランダルとは

デュランダルは父に日本競馬界に革命を起こしたサンデーサイレンス、母にサワヤカプリンセスを持つ。
母の短距離適性を受け継いだデュランダルは、短距離馬としての道を歩んでいく。

デビュー戦を勝利し順調にキャリアを重ねていくが、初のG1レースとなるマイルチャンピオンシップで10着に敗れる。
その後、4歳秋に本格化し、スプリンターズステークスでG1初優勝を飾り、続くマイルチャンピオンシップも戴冠した。

翌年は、裂蹄のためぶっつけ本番となった高松宮記念の2着から始動する。
秋は、まずスプリンターズステークスに登場した。
半年の休み明けに加え、追い込み脚質のデュランダルには不利な不良馬場となり、直線追い込むも2着に敗れ連覇を逃す。
叩き2戦目となったマイルチャンピオンシップでは、普段通りの後方待機から驚異の瞬発力を発揮して連覇を成し遂げた。

こうしてG13勝をあげたデュランダルは6歳になった2005年、1番人気に推されたマイルチャンピオンシップで8着となり引退した。

印象に残るレース

2003年 スプリンターズステークス(G1)

秋初戦、セントウルステークスで3着となり、迎えた本レース。
自身2戦目となるG1レースで、デュランダルは世間をあっと言わせた。

5番人気となったデュランダルは、最後尾からのレースとなる。
1200mという短距離に加え、前半600mが33.3秒とスプリントGIにしてはそれほど速くない流れとなり、厳しい展開になるかと思われた。

前哨戦セントウルステークスの勝ち馬テンシノキセキが先頭を引っ張り、1番人気ビリーヴは4番手と絶好の位置に付けている。
一方、デュランダルは最終コーナーを過ぎても最後方にいた。
中山競馬場の直線は短く、310mしかない。
しかも、馬群の大外を回り、距離ロスも否めない。

直線に入り、ビリーヴに名手・安藤勝己の鞭がしなる。
急坂にさしかかり、ビリーヴが完全に抜け出した。
誰もが、本レースで引退が決まっている“名牝”の有終の美を確信する。

ところが、大外から一頭、凄まじい勢いで飛んで来た。
そう!デュランダルである。
そして、ゴール前“スプリント界の女王”を測ったように差し切った。

結局残り300mで、デュランダルは出走馬全てをごぼう抜きにしたのである。

レース後、安藤勝己は無念を滲ませた。

「展開のアヤもあり、ほんのわずかだけ仕掛けが早くなってしまった」

だが、一瞬にして全頭斬り伏せた「名刀」の切れ味を褒めるべきだろう。

2003年 マイルチャンピオンシップ(G1)

スプリンターズステークスでG1ホースの仲間入りしたデュランダルは、次走マイルチャンピオンシップに登場する。
だが、G1制覇で波に乗るデュランダルは、当日5番人気に甘んじた。
距離がマイルに延びることに加え、前走の勝利がフロック視されていたからだ。

オッズを見ると、京都の重賞で実績を残すサイドワインダーが1番人気、前年に3歳最優秀牝馬に輝いたファインモーションが2番人気となっている。
有馬記念で初黒星を喫して以降精彩を欠き、新境地を開くべく初のマイル挑戦となるファインモーションと、G1初出走のサイドワインダーが相手ならば、デュランダルにも十分勝機があるように思えた。
しかも、舞台となる京都の外回りコースは前走から直線距離が大幅に延長するため、追い込み型のデュランダルにはおあつらえ向きではないか。

本命不在ともいえるマイル戦線にあって好条件が重なったこともあり、私はデュランダルを本命に据えた。
そして、果たせるかな、私の期待を一身に背負った「名刀」はその名に違わぬ走りを見せる。

大外枠を引いたファインモーションが好スタートを決めた。
だが、鞍上の武豊は折り合いをつけるため、中段にポジションを取る。
ハナを叩くギャラントアローは緩みの無いラップを刻み、前半の半マイルを46秒フラットで折り返す。
デュランダルはお約束の後方集団に待機した。

4コーナーに入り、同じ追い込み型のテレグノシスが捲り気味に上がっていく更に大外を、デュランダルは回った。
先頭のギャラントアローは経済コースを行き、逃げ切りを図る。
直線半ばに差し掛かり、真ん中からファインモーションが伸びて来た。
やはり、3歳最優秀牝馬の実力は伊達ではない。

次の瞬間、馬場アナウンサーの名実況がこだまする。

「一番外からデュランダル!デュランダル、デュランダルだ!スプリンターズステークスに続きマイルチャンピオンシップも見事に一刀両断。スプリンターズステークスに続いて名刀デュランダルの切れ味!大外からファインモーションを切り裂きました」

中段から上がり3ハロンを34秒1でまとめたファインモーション。
その大外から33秒5で差し切ったデュランダル。
出走18頭中、唯一33秒台の末脚を振りかざし、またしても馬群を切り裂いた…。

それにしても会心の予想のみならず、「名刀」デュランダルの鮮やかな末脚に、言葉では言い表せぬ清涼感が漂った。

翌2004年も後方一気の差し足で、並みいる強豪馬をなで斬りにしたデュランダル。
この「名刀」ほど、名は体を表したサラブレッドはいないだろう。

まとめ

2000年代初頭の短距離界において、強烈な末脚でファンを魅了したデュランダル。
最後方から追走し、直線に入ると伝家の宝刀を一閃する。
まさしく「聖剣」の名に恥じぬ切れ味で、ライバルたちを並ぶ間もなく抜き去った。

先行力がものをいう短距離レースで、デュランダルの走りは強烈なインパクトとともに記憶に残る。

淀の坂を下り直線大外を切り裂いたデュランダル。
その勇姿に「ローランの歌」の伝説が甦った。

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