NHK杯 羽生善治vs中村太地を観た感想 ~早起きは三文の得~





本日2月18日、NHK杯将棋トーナメント準々決勝・羽生善治永世七冠vs中村太地八段の対局を観戦した。
羽生さんが完勝したこともあり、とても気分が良い。
先達の仰せの通り「早起きは三文の得」は本当だ(実は放送直前に起きたのだが…)。

中年の分際で、私は未だ夜型人間を驀進中のダメ人間ということもあり、いつも日曜は昼近くまで寝坊している。
ということで、NHK杯戦を観るのは今年初めてである。
たまたまチャンネルをつけたわけだが、そこに登場するのが羽生さんとくれば、すっかり目が覚めた。

というわけで、改めて羽生さんを見て感じたことを書いてみる。

対局風景

会長就任の記者会見などで羽生さんをお見かけしたが、対局姿をテレビで拝見するのは随分と前のような気がする。
私の目には、会長になっても羽生さんは全く変わらない。
今までどおり自然体にして、悠揚迫らぬ物腰は健在である。

タイトル経験者の中村太地八段が対戦相手ということもあり、好勝負を期待した。
結果は、中村八段が意欲的な仕掛け(もしかしたら新手かも)をしたものの、その直後の疑問手を上手く咎めた羽生さんの会心譜となった。
中村八段としては力が出せず残念な結果となったが、羽生ファンの私としては嬉しい1日の幕開けである。

しかも、本局の解説者は谷川浩司十七世名人とあり、十九世名人・羽生善治とのそろい踏みは何とも豪華である。
そして、非常に感慨深いものがある。

私は対局もとても楽しめたが、それ以上に感想戦が心に残った。
勝敗を超えて将棋の真理探究を目指すのが羽生善治という棋士であり、今回も誰よりも熱心な様子が窺えた。
そこに解説者の谷川浩司も加わり、ともに検討する姿は対局風景よりもなぜか心に迫るものがあった。

特段、耳目を引くようなやり取りがあったわけではない。
ただ淡々と、局面を検討しているだけである。
だが、羽生善治と谷川浩司が交わす言葉に、何十年と鎬を削った戦友の年輪を感じた。

改めて羽生さんに感じたこと

私はちょくちょく羽生さんへの所感を書いてきたが、そこでは魂の美しさや素晴らしい年齢の重ね方に触れてきた。
個人的には、将棋連盟会長という政治色が強い役職に羽生さんは似合わないと思うのだが、彼ほどの大棋士ならば避けて通れぬ道であり仕方ない。
まだ半年だが、今回も変わらぬ羽生さんの姿が見ることができ、素直に嬉しい。

私は羽生さんを見るたびに、ある言葉を思い出す。
それは以前、映画監督の山田洋次がバブル経済に浮かれる世相に対比して、俳優・笠智衆について語った箴言だ。

「戦後、焼野原になった日本は目覚ましい高度経済成長を遂げ、たしかに日本人は豊かになった。しかし、昨今頻繁に起きる凶悪犯罪やバブル経済に浮かれる人々を見るたびに、日本人は本当に善良なのか…という疑問を抱くようになった。そんな時、ふと隣にいる笠さんを見ると、あ~やっぱり日本人は善良なんだとホッとさせてくれる…笠さんはそんな存在でした」

時代が変わりデジタル化・ITが進み、人間らしさが徐々に失っているように思える。
それに加え、YouTube界隈をはじめ「悪名は無名に勝る」と言わんばかりに、輩もどきの連中が幅を利かせるようになった。
政財界の大物たちに至っては、言わずもがなである。

そんな中、その人がいるだけで、その人が変わらぬ姿を見せてくれるだけで感謝の念が込み上げてくる。
笠智衆亡き今、私にとってそんな稀有な存在は羽生さんだけとなった。

次は、準決勝・藤井聡太八冠との対戦である。
個人的には、解説者は今回同様に谷川浩司十七世名人、または佐藤康光前会長を希望したい。

まとめ

会長職との二足の草鞋を履き、未だトップ棋士として輝きを放つ羽生善治永世七冠。
そんな不世出の大棋士は、藤井聡太が前人未到の八冠制覇を果たしたとき、印象的なコメントを残す。

それは記者からの、七冠制覇した頃の羽生善治と今の藤井聡太が対局したら強いのは?という質問だった。
羽生永世七冠は柔和な笑みを湛えてこう言った。

「いや全然、全く敵わないです」

私の知り合いが会見の様子を見ていたそうで、羽生さんの受け答えに衝撃を受けたという。
その知人は全く将棋に興味がないのだが、羽生さんの表情の素晴らしさ、そして何よりも自然体な受け答えに感銘を受けたという。
「自分だったら、とてもあんな風に言えない」と。

私も全く同感である。
たしかに、多くの人も羽生さん同様、謙遜はするだろう。
しかし、あれほど全く嫌味なく、心の底から藤井八冠を認めるコメントができるだろうか。
羽生さんほどの実力を備えれば、人は多少なりとも驕りが出る生き物だろう。
あの一瞬のやり取りにこそ、羽生善治永世七冠の真骨頂をみた気がした。

将棋界の“至宝”羽生善治永世七冠。
今後も会長としてのみならず、現役としても活躍を期待したい。


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