北京オリンピック大会4日目は、フィギュアスケート団体決勝が行われ、日本チームが銅メダルを勝ちとった。
オリンピックにおける団体戦でのメダル獲得はソチで正式種目に採用されて以降、日本初となる快挙である。
素晴らしいチームワークを誇るフィギュアスケート日本代表に、笑顔の花が咲く1日となった。
Number(ナンバー)1046号 完全保存版 北京五輪熱戦譜
日本フィギュアスケート史上初の銅メダル
団体戦最終日
坂本香織がオオトリを飾るべく、フリースケーティングで自己ベストに迫る演技をやり切った。
その瞬間、日本のオリンピック史上初となる銅メダルが確定する。
日本チームに歓喜の輪が弾けた。
本日登場した選手もみな、大健闘をみせる。
前述したシングルの坂本香織、アイスダンスの小松原美里・尊ペアの演技は、胸に余韻が響く味わい深いものだった。
中でも、私が特に感銘を受けたのが、トップバッターで登場した「ペア」種目の三浦璃来&木原龍一カップルである。
「自分たちが結果を出せば、次の世代の子どもたちが挑戦したいと思ってくれるはず」という木原の言葉を体現するような、素晴らしい演技を世界に発信した。
次々に決めていく大技は、銅メダルへの架け橋となっていく。
演技中、一番印象に残ったのが最後のエレメンツに向かう際、三浦が笑顔を湛えていたことである。
メダルがかかるプレッシャーの中、この大舞台を楽しんでいるように見えた。
そして、得点は139.6点である!
従来のパーソナルベストを4点以上も上回るハイスコアを叩き出し、この種目2位をゲットする三浦&木原ペア。
まさしく、ペア競技の未来へとつながる、心震わす演技だった。
素晴らしき日本チーム
思えば、宇野昌磨のショートプログラムで始まった今回の団体戦。
パーソナルベストを更新する宇野の滑りでスタートダッシュを決めたことが、日本に勢いを与えた。
日本チームのメンバーが口々に、宇野の演技に勇気をもらったと語っている。
選手たちをチームとして一つにまとめた、宇野昌磨の決意みなぎる渾身の演技だった。
チームの最終演技を飾ったのが、日本女子のエース坂本花織である。
坂本は「仲間たちの演技を見て、自分もやらなければ!」と強く感じたという。
その気持ちが後押しして、坂本はノーミスの演技で日本チームのエンディングを締めくくった。
明るいキャラクターの彼女の存在は、チームにとって不可欠である。
そして、圧巻の演技で世界を震撼させたのが鍵山優真である。
18歳という年齢を感じさせない強い精神力と完成度の高いエレメンツ。
自身最高難度で挑んだオリンピックの初演技で、ほぼノーミスで滑り切るポテンシャルには言葉もない。
今、最も勢いを感じさせる、伸び盛りのフィギュアスケーターといえるだろう。
2月8日からの男子シングルでは表彰台はおろか、優勝争いにも割って入るかもしれない。
樋口新葉もオリンピック初出場である。
4年間待ちに待った憧れのステージ。
こだわりを持って磨き続けたトリプルアクセルを封印して臨んだ団体戦。
そこには、自分のためではなくチームのために滑る樋口新葉がいた。
演技後半に見せたステップシークエンス。
平昌オリンピックを逃し、苦しかった日々を乗り越え、この舞台に立てる喜びを体いっぱいで表現したステップは、躍動感にあふれ生命の輝きを放っていた。
シングルに登場した選手は、鍵山優真が1位、宇野昌磨・坂本花織・樋口新葉は2位という圧巻の成績を収めた。
ネイサン・チェンやカミラ・ワリエワをはじめとする世界の強豪を向こうに回して、堂々たる戦いを展開した。
そして、この4選手の曲がまた良いのだ。
宇野の「オーボエ協奏曲」の静謐な旋律。
鍵山優真の「グラディエーター」は、まなじりを決した戦士の気迫が伝わってくる。
樋口新葉の「ユア・ソング」の会場を包み込むような優しい音色。
坂本花織の「No More Fight Left in Me」の伸びやかでダイナミックな曲調は、まさに彼女にぴったりである。
忘れてはならないのが、ペア種目2チームの躍進である。
「アイスダンス」の小松原美里・尊ペア。
自らのアイデンティティともいえる国籍を捨ててまで、オリンピックにかけた小松原尊の英断。
その根底にあったものは、オリンピックの夢舞台に妻と一緒に立ちたいという願いだった。
この小松原美里・尊ペアのキーワードは「絆」ではないか。
夫婦としての絆、そしてペア競技に挑むパートナーとしての絆があればこそ、日の丸を背負う大役を果たせたように思うのだ。
そして、三浦璃来&木原龍一ペアの快進撃には胸が躍った。
5チームで争う決勝では、なんと2位になる躍進を遂げる。
これまで、団体戦のウィークポイントであった本種目で、むしろポイントゲッターとなっているではないか!
このペアに感じるのは「信頼」である。
10歳の年の差を全く感じさせない息の合った演技。
三浦璃来は語る。
「木原さんは、もしミスしても必ず自分が下敷きになって守るから!と声をかけてくれる」
三浦の木原に対する信頼の源泉を知った思いがする。
この揺るぎなき信頼関係が、演技に色濃く反映されたのだろう。
こうして日本選手の活躍を振り返ってみると、それぞれの選手が自分のなすべきことを確実にやり遂げる、とても頼もしい面々であったことを改めて実感する。
このチームで表彰台に上がれることが、何よりも素晴らしい。
フィギュア大国 ロシア
ロシアが女子シングルフリースケーティングに送りこんだのが、ショートで究極の演技を見せたカミラ・ワリエワである。
ワリエワの演技は、全てのエレメンツに細やかな匠の技が施されている。
神は細部に宿るというが、ワリエワを見ているとよく理解できる。
ところが、後半の4回転ジャンプで転倒する。
練習でもほとんどミスがないワリエワだが、やはり五輪は独特の緊張感があるのだろう。
つい失念していたが、よく考えれば彼女もオリンピック初出場なのだ。
不見識を承知で言うが、私は彼女の転倒を見てホッとした。
カミラ・ワリエワも人の子だったのだと。
それでも180点近く出すのだから、一度性別の枠を取り払って人類頂上決戦と銘打ち、ネイサン・チェンや羽生結弦と雌雄を決してほしい。
また、女子シングルに目が行きがちだが、ロシアチームはペアやアイスダンスにも世界王者を揃えている。
まさにその強力すぎる布陣は、おそロシアである。
予選から決勝まで一人も選手を変えずに戦った姿は、是が非でも金メダルを獲る!という固い決意が滲み出ていた。
※その後、ワリエワにドーピング違反が発覚した。
大変残念である。
まとめ
これまで5位が最高だった日本が、悲願のメダルを獲ったフィギュアスケート混合団体。
ソチ、平昌と、これまでのオリンピックで一歩ずつ積み上げてきたことが、実を結んだのではないか。
いよいよ、フィギュアスケートは個人戦が開幕する。
チームで挑んだ団体戦とは異なり、仲間の後押しがない孤独な戦いとなる。
内なる自分との戦いを制し、これまで培った努力の成果を発揮できた者だけに、栄光が待っている。