北京オリンピック名勝負① フィギュアスケート団体戦 初日




2月4日、北京オリンピックのフィギュアスケート団体戦が始まった。

まず、初日は男子シングルショートプログラムで宇野昌磨が2位に入る活躍をみせる。
そして、「アイスダンス・リズムダンス」に出場した小松原美里・尊ペアや、「ペア」種目の三浦璃来・木原龍一ペアも伸びやかな演技をみせ、日本チームはメダル獲得に向けて幸先の良いスタートを切った。

宇野昌磨と共に世界王者ネイサン・チェンが出場した、男子シングルショートプログラムを振り返る。


Number(ナンバー)1046号 完全保存版 北京五輪熱戦譜

男子シングルショートプログラム

ネイサン・チェンと宇野昌磨だけでなく、出場した他の選手も素晴らしい演技をみせた。
次々と着氷していく4回転ジャンプ。
4回転の中でも、ルッツやフリップといった高難度ジャンプも含まれているのが驚かされた。
しかも、90点越えが4人いたのもレベルの高さを物語る。

特に、ロシアの18歳の新鋭マルク・コンドラチュクは印象に残った。
ロシア選手権と欧州選手権を立て続けに制覇した勢いそのままに、オリンピック本番でも小気味よい演技を披露する。
演技前半に4回転トゥループを決め、後半には4回転サルコウと3回転トウループのコンビネーションも着氷する。
演技後半に4回転のコンビネーションジャンプを入れるのは、コンドラチュク以外にはネイサン・チェンのみである。

スピン・ステップも1つだけレベル3となったが、それ以外はレベル4でまとめた。
95.81点で、本種目3位に入る健闘をみせた。

宇野昌磨

オリンピック団体戦における日本初のメダルを目指して、先陣を切る宇野昌磨。
冒頭から、4回転フリップの高難度ジャンプをスムーズに成功させる。
GOE(出来栄え点)で+3をもらう、美しいジャンプであった。

続く、勝負のカギを握る4回転からのコンビネーションジャンプ。
これまた、4回転トウループ&3回転トウループを決めた。
今シーズンはジャンプの安定度が増した宇野だが、コンビネーションの2本目が2回転になることが多く、いつも課題に挙げていた。
きっちり、オリンピックに向けて仕上げた勝負強さが光る。

演技後半の3回転アクセルも見事なジャンプを見せ、+4の加点をマークする。
あまりにも滑らかな着氷は、思わず見入ってしまうほどである。

終盤のスピンとステップでレベル4を取りこぼしたが、ほぼ完璧な演技で観客を魅了した。
パーソナルベストとなる105.46点をマークした滑りは、間違いなく今シーズン一番といえるだろう。
常に“挑戦”という言葉を口にする宇野昌磨は、これからも進化し続けるに違いない。

そして、演技だけでなく、プログラムに使用した楽曲もまた素晴らしい。
「オーボエ協奏曲」が奏でる美しくも、胸に哀しく響く音色たち。
宇野の演技と親和性の高い旋律が、より滑らかなスケーティングを引き立てる。

この曲に宇野昌磨がこれほど似合うのは、きっと4年間の苦しみを乗り越えた末に、この舞台に立っているからだ。

ネイサン・チェン

海外メディアが「まるで宝石のようなショートプログラム」と絶賛した宇野を6点以上も上回った選手がいる。
それは、言わずと知れた“史上最強の4回転ジャンパー”ネイサン・チェンである。

先月、全米選手権6連覇を達成したチェンは、最初のジャンプ・4回転フリップを完璧に着氷する。
宇野のジャンプも素晴らしかったが、それ以上の優雅さで舞い降りるネイサン・チェン。

GOEも、ほぼ+4に届きそうなほどの完成度である。
続く3回転アクセルも危なげない。

そして、圧巻だったのが、演技後半の4回転ルッツ&3回転トウループの、現行試行されている最難度のコンビネーションジャンプである。
およそ4回転ルッツとは到底思えぬほどの余裕を持ってファーストジャンプを降りると、続くコンビネーションジャンプの3回転トウループも難なく決めたのだ。

私は、実はこの構成に、少し不安を抱いていた。
チェンが最後のジャンプにコンビネーションを付けるのは見慣れているとはいえ、4回転ルッツとのコンビネーションを持ってくるのはリスキーに感じたのだ。
前半に、このコンビネーションを跳ぶのなら、まだ挽回の余地がある。
だが、必ず1本コンビネーションジャンプを付けなくてはならないショートプログラムで、もし最後に失敗したら取り返しがつかない。
なので、以前は同じ4回転でも難易度を落とした構成にしていたはずだった。
だが、私の心配など、どこ吹く風で決めてしまうネイサン・チェンには脱帽である。

そして、ステップシークエンスでは深いエッジワークに、指先まで行き届いた繊細な表現力。
チェンが、ただの4回転ジャンパーでないことがよく分かる。

ステップ・スピンも全てレベル4の、これ以上望むべくもない完璧なまでの滑り。
アナウンスされた得点は111.71点と、羽生結弦の世界記録111.82点にはわずかに届かなかったが、私にはそんなことは大して意味がない。

「平昌オリンピックでの経験は永遠に忘れることはないでしょう。そして、それは永遠に僕の力になるでしょう」

その自らの言葉を、この大舞台で有言実行してみせたネイサン・チェンの姿こそ、価値があるからだ。

そして、私は会心の演技と同じぐらい、嬉しかったことがある。
それは、ネイサン・チェンが笑顔で演技を終えられたことだ。
4年前の団体戦、そこにはジャンプが乱れ得点が伸ばせず、苦悶の表情を浮かべるチェンがいた。

あの日の自分にリベンジを果たしたネイサン・チェンに、心からの拍手を送りたい。

まとめ

小松原美里・尊ペアの「アイスダンス・リズムダンス」や三浦璃来・木原龍一ペアの「ペア」競技も見どころ満載だった。
どうしてもシングル競技に比べると注目度は落ちるが、息ピッタリの演技は見ていてワクワクするような、シングルとはまた違う趣がある。

そんな中、心に残るシーンがあった。
ドイツのペア競技に出場予定だった選手が、新型コロナウイルス陽性により出場できなくなる憂き目にあう。
すると、キス&クライに集まる選手たちが、二人が映る写真入りのメッセージボードを用意して「We miss you」という言葉を添えていたのである。
団体戦ならではの光景に、フィギュアスケートという競技、そしてフィギュアスケーターたちの素晴らしさを改めて感じることができた。

そして、思う。
今大会は、他競技でも新型コロナの影響で出場辞退に追い込まれる選手が続出している。
4年に1度、夢の祭典オリンピック。
どうか無事、全ての選手が個人戦の舞台に立ち、悔いなきよう己の競技人生を全うしてほしい。

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