世界水泳福岡2023名勝負③「心に残った素晴らしき大会」





「世界水泳福岡2023」が終了した。
初日から世界記録ラッシュとなった今大会は、改めて競泳の醍醐味を伝えてくれたように思う。

ポポビッチの失速は残念だが、マルシャンやマッキントッシュ、オキャラハンなど若きスターが躍動した。

と同時に、長きにわたり世界の頂点に君臨する、ショーストロムやレデッキーの活躍にも感銘を受ける大会となる。

サマー・マッキントッシュ

優勝候補に挙げられた400mと200mの自由形で、優勝争いに絡めなかったマッキントッシュ。
200mバタフライでは本領を発揮し、自己ベストで連覇を果たした。
その泳ぎは序盤から積極的にトップに立ち、そのまま後続を引き離すものだった。
レースを重ねるごとに調子を上げてきたようだ。

最終日、個人最後の種目となる女子400m個人メドレー。
サマー・マッキントッシュは満を持して登場する。
第一泳法のバタフライからリードを奪い、背泳ぎ、平泳ぎと危なげなくレースを進めるマッキントッシュ。
世界記録を狙えるタイムで、最終泳法クロールに挑む。
すでに築いたセーフティリードが、みるみるうちに開いていく。
完全に独走態勢に入った16歳は、最後まで攻めの泳ぎを貫いた。

大会序盤は不調も囁かれる中、終わってみれば見事に立て直し、銅メダル2個とあわせて2冠を手に入れた。

男子200m平泳ぎ

ポポビッチ、マルシャン、マッキントッシュなど、世界の競泳界を牽引するスーパースターたち。
そんな彼らは、もちろん人気でも群を抜いている。

だが、私には上記スーパースターらにも劣らない、好きな選手が存在する。
それは、男子200m平泳ぎに登場するアイザック・スタブルティクック(豪)である。
まず、実績が素晴らしい。
本種目、東京五輪で金メダルを獲得し、2022年5月には人類未踏の2分5秒台に到達した。

そして、彼に人一倍思い入れがあるのは、その名前にも由来する。
当初、私は彼の名前を満足に言えずにいた。
スタブルティクック。
一見、それほど珍しくないように思える名前だが、発音が難しい。
日本人の感覚では「スタブル・ティクック」と発音したくなるところだが、「スタブル・ティ・クック」と読むのである。
これが俗にいう、スタブルティクックの三段活用だ(たった今、私が即興で作成)。

さて閑話休題。
女子長距離種目におけるケイティ・レデッキーを除き、短中距離のレースではライバルとの力関係を含め、金メダルに最も近いのがこのアイザック・スタブルティクックだと思っていた。
ところが今大会、平泳ぎの50と100で優勝し、200mで3冠を目指す刺客が現れた。
中国の覃海洋(たんかいよう)である。
とはいえ、スプリントタイプの覃海洋では200mは持たず、ラスト50mに絶対的な自信を持つスタブルティクックのラストスパートに屈すると思われた。

レースが開始し、快調に飛ばす覃海洋。
世界記録より1秒近く速いペースに対し、優勝候補筆頭のスタブルティクックは約1秒遅れの7位にポジションを構えた。
ピンチのようにも見えるが、これがスタブルティクック流の組み立てだ。

150mの折り返しでも、相変わらず覃海洋は約1秒、世界記録を上回っている。
一方のスタブルティクックはいつの間にか3位まで追い上げて来たものの、まだ覃海洋とは1秒04遅れをとっている。
しかし、ここからがスタブルティクックの独壇場…のはずだった。

最後の50m、いつものようにスタブルティクックはピッチを上げる。
しかし、覃海洋との差は詰まらない。
先頭でゴール板をタッチする覃海洋。
スタブルティクックの持つ世界記録を0秒47更新する、2分5秒48という驚異的なタイムを打ち立てた!
スタブルティクックは0秒92遅れの2位でフィニッシュする。
結局ラスト50のラップでも、覃海洋はスタブルティクックとほぼ変わらぬタイムで泳ぎ切った。

あのアイザック・スタブルティクックが負けるとは…。
茫然自失となる私の眼前で、覃海洋は世界記録のオマケ付きで平泳ぎ3冠の偉業を達成した。

ベテランの活躍

1. 日本勢

28歳にして世界水泳初出場を果たした、女子50m背泳ぎの高橋美紀。
惜しくも決勝進出はならなかったが、この年まで努力し続ける姿が素晴らしい。

そして、女子50m及び100m平泳ぎの鈴木聡美である。
21歳でロンドン五輪銀メダリストになった彼女は、今年32歳で自己ベストを更新した。
その余勢をかって出場した地元福岡の世界水泳で、見事に決勝進出を果たす。
結果は50・100とも8位に終わったが、継続は力なりを示す姿に深い感銘を受ずにいられない。
素晴らしい笑顔弾ける鈴木聡美は、見事に故郷に錦を飾った。

最後に、まだベテランと呼ぶのは憚られるが、大会7日間を通し個人とリレーの合計13レースを泳いだ池江璃花子には頭が下がる。


あきらめない「強い心」をもつために (著・池江璃花子の母)

2. サラ・ショーストロム

女子50mバタフライで、世界水泳5連覇がかかるサラ・ショーストロム。
ひとり24秒台の記録を出し、文句なしで偉大な記録を達成する。

そして15分後、ショーストロムは女子50m自由形準決勝に登場する。
すると、自らの世界記録23秒67を100分の6秒上回る、23秒61の世界新記録を叩き出す。
勝負の決勝では、準決勝で出した世界記録に100分の1秒差に迫る好タイムで優勝した。
29歳にして、なお進化する“スウェーデンの至宝”には言葉もない。

人柄も素晴らしいサラ・ショーストロム。
池江璃花子の親友は、我々競泳ファンにも勇気を与えた。

3. ケイティ・レデッキー

女子400m自由形こそティットマスの驚異の世界記録の前に屈したが、今大会も得意の長距離種目では無人の野を行くが如しのレデッキー。

1500mでは2位に17秒もの大差を付け、世界水泳通算20個目の金メダルを獲得する。
そして、10年間負けなしの800mではライバルと目されたティットマスを寄せ付けず、同種目6連覇の金字塔を打ち立てた。

練習中もチームメイトと明るい笑顔を交わすレデッキー。
そんな彼女はいついかなるときも、過去の自分を超えるべく常に全力で泳ぎ切る。

まとめ

カイリー・マキュオン(豪)が平泳ぎ50・100・200mの同一種目3冠を、女子史上初めて成し遂げた。

また、レデッキーやマッキントッシュなど世界最高峰の選手が揃う400m自由形で、世界記録を出したアリアン・ティットマスも印象深い。

そして、何と言っても今大会、女子選手の中で最もインパクトを残した選手のひとりが、モリー・オキャラハンだろう。
世界記録を出した200m自由形に続き、100m自由形でも接戦を制し金メダリストに輝いた。
フリーリレーも3種目全てに出場し、いずれも世界記録に貢献する泳ぎで、大会5冠を成し遂げた。

マキュオン、ティットマス、オキャラハン。
「世界水泳福岡2023」はオーストラリアチーム、特に女子スイマーの躍進著しい大会となった。

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