世界水泳ブタペスト2022 名勝負① 「ケーレブ・ドレセル」




2022年世界水泳選手権がハンガリーの首都ブタペストで、現地時間の6月18日に開幕した。

大会2日目、男子4×100mフリーリレーで、早くも金メダルを獲得したケーレブ・ドレセル。
ところが、男子50mバタフライで大会2個目の金メダルを手にした後、健康上の理由で大会を棄権した。

もちろん2冠の活躍は喜ばしいが、一ファンとしては残念な心境も抱いている。

男子50mバタフライ

男子4×100mフリーリレーで危なげなく、アメリカ代表として金メダルをとったドレセル。
続く男子50mバタフライ準決勝を22秒79と2位で通過する。
ここまでの本種目の戦いを見る限り混戦模様であり、絶対王者ドレセルといえども安穏としてはいられない。
決勝に向け、ギアをどれだけ上げられるかが勝負の分かれ目になりそうだ。

勝負の決勝。
スタートを切った選手たちは、ほぼ横一線で浮き上がる。
戦前の予想通り、誰が抜け出すか全く予断を許さない大混戦となる。
レース中盤から終盤にかけ、ドレセルがほんの僅かにリードを奪ったか…。
とはいえ、その差はあってないようなものであり、最後はタッチの勝負となる。

そして…。
激戦を制したのは、やはり王者ケーレブ・ドレセルであった。
今大会2つ目の金メダルとなる。
ゴールタイムは22秒57とドレセルにしては平凡な記録だが、準決勝から0秒2以上縮めての泳ぎは流石であり、もう一段上のギアを隠し持っていたのだろう。

2位に入ったブラジルのニコラス・サントスは42歳という年齢にもかかわらず、今シーズンに入りブラジル新記録を樹立するなど、進化する不惑アスリートである。
これで、世界選手権4大会連続の表彰台となった。
ここまで息長く競技人生を、それも世界のトップをキープし続ける努力には脱帽するしかない。

ドレセル棄権の所感

ケーレブ・ドレセルは男子100m自由形の予選を2位で突破したが、準決勝の前に棄権した。
大会終了を待たずして、ブタペストを出立したという。
健康上の理由以外は発表がないため、詳細については分からない。

私はドレセルの無事を願うと共に、残念なあまり脱力した。
なぜならば、今大会で最も楽しみにしていたのが、ドレセルの出場する男子100m自由形と男子100mバタフライだったからである。

昨年の東京オリンピックで、この両種目は非常に見応えのあるレースだった。
まず、男子100m自由形はドレセルと、リオ五輪金メダリストのカイル・チャルマーズの一騎打ちとなる。
先行するドレセルを猛然と追い込むチャルマーズ。
ゴールした瞬間は、どちらが勝ったか全く分からない。
わずか0秒06差で、ケーレブ・ドレセルに凱歌が上がった。

未だ余韻冷めやらぬ私は一騎打ちを楽しみにしていたのだが、個人戦にはチャルマーズが出場しないことを知り、最初のダメージを受ける。
だが、17歳の新星ダビッド・ポポビッチの躍進もあり、すわ新旧のスター対決かと胸躍らせる。
ところが、ドレセルの棄権を知り、2度目の失望を味わった。

男子100mバタフライに関しては、同じく昨夏のオリンピックでのレースを思い出す。
ドレセルは世界記録を更新する会心のレースを展開した。
そこに、挑んだのがクリシュトフ・ミラークであった。

今大会でも男子200mバタフライで他を寄せ付けない圧巻の泳ぎで世界新記録を叩き出した若き王者は、東京オリンピックでも同種目を完勝する。
そして、ドレセルの独壇場と思われた男子100mバタフライで、ゴール寸前で強襲し、あわやの場面を演出したのだ。
年齢的にも若いミラークが、どこまでドレセルを追い詰めるのか…。
実は、最も興味津々だったのが、この男子100mバタフライだったのである。

しかし、こうして見ると、改めて世界の水泳シーンにおけるケーレブ・ドレセルの存在の大きさを痛感させられる。
名勝負の陰にドレセルあり!といっても過言ではない。

今後も、男子100m自由形や男子100mバタフライでは、上記ライバル達と覇権を争っていくことだろう。
特に、若いポポビッチとミラークにはまだまだ後れを取ることなく、頂点に君臨し続けて欲しい。

まとめ

ケーレブ・ドレセルは、私にとって特別なアスリートである。

東京オリンピックで世界新記録を含む5冠に輝き、大会の主役となった雄姿。
そして、恩師クレア・マックールとの秘話、彼女の形見である青いバンダナに込められた想い。

来年の世界水泳福岡と2024年パリ五輪では、ぜひともドレセルらしい泳ぎを見たいと切に願う。