世界水泳ブタペスト2022 名勝負② 日本選手の活躍





ハンガリーの首都ブタペストで開催された世界水泳が終了した。
オリンピック翌年ということもあるのか、10代の新星の活躍が目立つ大会となった。

日本勢は金メダルこそ無かったものの、男子が銀メダルを2つ、銅メダルも2個獲得する。
女子は、大本里佳が4位に入賞するなど健闘を見せるが、メダル獲得とはならなかった。

今大会、印象に残った日本選手のレースを振り返る。

1.本多灯 男子200mバタフライ銅

本種目は何といっても、地元ハンガリーの英雄クリシュトフ・ミラーク抜きには語れない。
決勝で1分50秒34秒という、自身が持つ従来の世界記録を0秒39も更新する人類未踏の領域に踏み入れる。
一時は、夢の1分49秒台も視野に入れる会心のレースだった。
終わってみれば、2位に3秒以上つける別次元の強さを披露する。

日本期待の東京オリンピック銀メダリスト本多灯が、今大会もやってくれた。
20歳の新鋭レオン・マルシャンには後塵を拝したが、序盤から圧巻のパフォーマンスを見せつけるミラークの隣で難しい泳ぎを強いられる中、銅メダルを死守する。

昨年のオリンピックはギリギリ8位で決勝に進出し、気楽な立場での銀メダルだった。
自らが語るように、運や勢いの要素も大きかったに違いない。
しかし、今回は有言実行の末、成し遂げた表彰台である。
順位こそ1つ下げたが、むしろ内容と価値としては今大会の方が評価できるのではないか。

2.瀬戸大也 男子200m個人メドレー銅

男子200mバタフライ銀メダリスト、フランスのマルシャンが400 m個人メドレーに続く2冠を達成した。

そんな中、瀬戸大也はよく頑張った。
準決勝を3位通過し、表彰台の期待がかかる決勝本番。
最終泳法の自由形で熾烈なメダル争いを繰り広げる中、ラストを息継ぎ無しでゴールした。
4位とのタイム差を考えれば、このノーブレスが表彰台の分かれ目になったのかもしれない。

世界選手権では金メダルをはじめ、数々のメダルを手にしてきた瀬戸大也。
だが、スキャンダルに見舞われ、期待された東京オリンピックでメダル無しに終わる。
28歳の瀬戸に対し、まだ20歳のマルシャンなど新勢力の台頭著しい。
そうした逆風にもかかわらず、執念でメダルをもぎ取った意味は非常に大きいのではないか。

気持ちが伝わる瀬戸大也の銅メダルだった。

3.花車優 男子200m平泳ぎ銀

初代表となる花車優が銀、武良竜也は4位と大健闘を見せた。

レース前半は、花車が7位と抑え気味に入るが、武良はメダル圏内で折り返す。
中盤から後半にかけても横一線といった感じで、全く予断を許さない。
優勝したスタブルティクックと花車はラスト50mで上がって来ると、そのままワンツーフィニッシュを決めた。

世界のトップスイマーの中にあって、圧巻のラストの強さを見せる花車。
初の世界水泳で、プラン通りにレースを展開した冷静さが光る。
断トツの優勝候補スタブルティクックも射程圏内に入れる、素晴らしいレースであった。

さすが名将・平井伯昌コーチが自らスカウトした逸材である。
その平井コーチの嬉しそうな表情が印象に残った。

来年の世界水泳が開催される福岡、そしてパリへと続く花車優の銀メダルだった。

4.水沼尚輝 男子100mバタフライ銀

大本命ケーレブ・ドレセル不在の中、準決勝は予想通りクリシュトフ・ミラークがトップ通過を果たす。
2位につけたのは、50秒81の日本新記録をマークした水沼尚輝である。
前半は最下位でターンしたが、得意の後半で巻き返す。
俄然、メダルへの期待が膨らんだ。
もし、本種目でメダル獲得となれば、オリンピック・世界選手権を通じ日本史上初の快挙となる。

決勝は、水沼の持ち味であるラスト15mの強さが遺憾なく発揮されたレースとなる。
ミラークが前半をトップで折り返し、そのまま押し切った。

熾烈を極めたのが、銀メダル争いである。
最後まで全く分からないタッチ勝負となった。
3位とは0秒03、4位とは0秒17差という大接戦を制したのは水沼尚輝であった。
ゴールタッチを上手く決めた、水沼の勝負強さに軍配が上がる。

表彰式での嬉しそうな表情が、新しい日本競泳界の扉を開いたことを物語る。
今、日本競泳界の歴史が動いた。

5.大本里佳 女子200m個人メドレー4位

女子200m個人メドレーには、東京オリンピック金メダリストの大橋悠依が登場したが、準決勝で敗退する。
代わって、4位入賞と健闘を見せたのが大本里佳だった。

昨年の東京オリンピックには出場が叶わなかったが、その悔しさをぶつけるような渾身の泳ぎは胸を打った。
まず、スタートで全選手中No.1の反応速度を見せ、第一泳法のバタフライで2位につける上々の滑り出しを切る。
第2泳法の背泳ぎでも3位で折り返すと、苦手の平泳ぎを粘りの泳ぎで食らいつく。
ラストの自由形に入ると前を行く3人を必死に追いかけるが、惜しくも届かなかった。
だが、とても心に残る泳ぎを見せてくれた。

「メダルには届かなかったが、予選、準決勝、決勝と3本ともシーズンベストを更新でき、納得できるレースができた」

レース終了後のインタビューで、こう語る大本の表情は実に清々しく、全力を出し切ったことが画面越しにも伝わってくる。
レースはもちろんのこと、テレビの前のこちらが晴れやかな気持ちになる、大本里佳のインタビューだった。

まとめ

東京オリンピックという集大成の大会を昨年終え、迎えた今大会。
目標をクリアできた選手もいれば、課題が残った者もいるだろう。

男子は4つメダルをとったが、女子がメダルなしの結果は寂しい。
また、金メダルがないのも少し残念である。
一方で、10代の選手が次々と出てくる世界は、やはり広いと感じた。

来年の世界水泳は地元福岡で開催される。
ぜひ我々の目の前で、パリに繋がる会心の泳ぎを見せて欲しい。

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