世界水泳ブタペスト2022 名勝負④「頂に君臨し続ける女王達」





10代の新鋭が次々と、主役に躍り出た今大会。
まさに、世代交代の波が押し寄せた感がある。

そんな中にあって、まるで世相に抗うが如く、頑なに世界の頂に鎮座し続ける女王達がいる。
その女王とは、ケイティ・レデッキーとサラ・ショーストロムである。

ケイティ・レデッキー

アメリカの25歳ケイティ・レデッキーは今大会、400m自由形、800m自由形、1500m自由形に加え、4×200mフリーリレーでも金メダルを獲得し4冠に輝いた。
中でも、800m自由形は大会5連覇の偉業を達成し、400m自由形では大会新記録を叩き出す。

自由形では200m~1500mまでの全種目で、オリンピックと世界選手権を制してきたレデッキー。
距離の壁を超越するこのスイマーは、競泳史に類を見ない偉大な女王である。
特に800m自由形と1500m自由形では序盤から先頭に立つと終始リードを広げ、他者を全く寄せ付けない。
まさに、その様は無人の野を行くが如しである。

15歳で迎えたロンドン五輪で、世界をあっと言わせたレデッキー。
その後、世界記録を14度更新した姿には頭が下がる。

あれから10年。
獲得した金メダルの数はオリンピックで7個、世界選手権で19個となった。
予選から手を抜かず妥協せず、己がレースを全うする競技への姿勢。
どんなに大差をつけても、ゴールまで全力を振り絞る。
だからこそ、これほどまでの栄光を積み上げることが出来たのだろう

私はこのレデッキーの姿に、往年の名ゴルファー、トム・ワトソンの言葉を思い出す。

「手抜きをすれば、敗北を認める姿勢ができてしまう」

昨日までの自分を超えるため、レデッキーは今日も全力を尽くす。
全てのアスリートにとって見本とすべき、真の女王と呼べるだろう。

サラ・ショーストロム

今大会の戦い

スウェーデンの女子競泳界の伝説サラ・ショーストロムは、まず女子100m自由形に登場する。
自由形の50・100m、バタフライの50・100mの4種目で世界記録を持っている彼女は、五輪と世界選手権を通じて100m自由形だけ金メダルがない。
序盤から積極的に飛ばしたショーストロムだが、18歳の新鋭オキャラハンにわずか0秒13及ばず銀メダルとなった。

しかし、女子50mバタフライでは世界水泳4連覇を成し遂げた。
さらに、女子50m自由形でも金メダルを獲得し、大会2冠となる。
しかも、唯ひとり23秒台で泳ぎ切り、健在ぶりを知らしめた。

今年29歳を迎えるショーストロムは、これで世界水泳のメダル獲得数は通算20個となり、10個目の金メダルとなった。

池江璃花子との友情

池江が白血病を公表したとき、真っ先にエールを送ったのがショーストロムだった。
2019年2月、その衝撃の一報は日本のみならず、世界中を駆け巡る。
すると、ショーストロムはInstagramに池江とのツーショット画像を載せ、彼女への想いを記したのである。

そして、2019年世界選手権でショーストロムは表彰台に立った他の選手と共に、掌をカメラに向け池江璃花子へメッセージを送る。
そこには、3人の掌に書かれた池江を勇気づける言葉があった。

“Ikee ♡ Never Give up Ricako ♡”

この行動を提案したショーストロムは言う。

「璃花子を想い続けていることを届けたかった」

ところが、今度はショーストロムに悲劇が襲う。
昨年2月に右腕を骨折し、オリンピックの出場は難しいと思われた。
失意の彼女へお返しとばかりに、エールを送ったのが池江璃花子だった。
掌に「Never give up ♡Sarah♡」とメッセージを書いて、気持ちを届けたのである。

そして、サラ・ショーストロムと池江璃花子は、東京オリンピックのプールサイドで再会を果たす。
苦しいリハビリの末に何とか間に合わせたショーストロムと、白血病という命の危機を乗り越えた池江璃花子。
東京での再会は、奇跡としか思えない。

それどころか、不屈の女王ショーストロムは、女子50m自由形で銀メダルを獲得してみせたのだ!
世界大会で数多の金メダルを獲得してきたショーストロムだが、この銀メダルは金メダルにも負けない輝きを放っていた。

まとめ

10代の新星たちの華々しい活躍の他に、今大会はイタリア旋風が巻き起こった。
男子100m背泳ぎで世界新記録を出したトマス・チェッコンをはじめ、男子4×100mメドレーリレーでもアメリカとの激闘を制し、五輪・世界選手権史上初となる悲願の金メダルを勝ちとった。

そんな新しい風が吹き抜ける中、倦まず弛まず努力を続け、世界の頂に君臨し続けるケイティ・レデッキーとサラ・ショーストロム。
新勢力の台頭だけでなく、彼女たちのようなレジェンドの存在が、世界の競泳シーンを盛り上げる。

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