東京オリンピック名勝負⑪ 卓球日本 ~後輩に託したエースの背中~




卓球女子団体は決勝戦が行われ、女王中国に日本が挑んだが3-0のストレートで敗れ、銀メダルとなった。

また、卓球男子団体の3位決定戦では日本が韓国を3-1で下し、リオ五輪に続くメダルを勝ちとった。

男子団体戦を中心に熱戦の模様をお伝えする。

女子に続く男子の戦い

前日に行われた女子団体決勝では中国にストレート負けしたが、石川佳純・平野美宇ペアで挑んだダブルスでは互角の打ち合いを演じた。
特に、石川の気持ちの入ったプレーにはリオ五輪からの5年間の思いが伝わってくるような、心震わされるものがあった。

シングルスでは、伊藤美誠が個人戦で後塵を拝した孫穎莎(ソンエイサ)に1セットを奪うも敗北し、平野美宇はストレート負けを喫した。

男女混合ダブルスで中国越えを果たしたが、やはり卓球王国の壁は高かった。

そして、男子は8月6日、韓国と銅メダルを懸けた戦いに臨む。
リオ五輪に続く、メダル獲得を目指す卓球男子にとって、負けられない戦いが始まった。

男子団体3位決定戦

まずはダブルスである。
日本は水谷隼と丹羽孝希がペアを組む。
実は、二人ともサウスポーという、卓球では非常に珍しいペアなのである。
その組み合わせが吉と出るか凶と出るか…。

心配をよそに、日本ペアは立ち上がりから息の合ったコンビネーションプレーが冴える。
そして、セットカウント1-1で迎えた第3セットを大接戦の末に競り勝ち、そのまま押し切った。
水谷隼のベテランらしい好判断が随所に見られただけでなく、丹羽に頻繁に話しかけ密なコミュニケーションを図ったことが、勝因になったのではないか。

第2試合は、エース張本智和がシングルスで登場した。
第1セットを先取した張本だが、第2セットはチャン・ウジンの回り込んでのフォアハンドに苦戦する。
第3セットもポイントを先行される苦しい戦になったが、後半挽回し逆転でこのセットを奪う。
調子の波に乗った張本が第4セットもとり、3-1で勝利を収めた。
18歳という若さで、エースの重責を果たした張本。
これで日本が2-0とし、王手をかける。

第3試合は丹羽がストレートで完敗し、韓国に追い上げムードが出てきた。

そして、第4試合はいよいよ水谷の出番だ。
相手は韓国のエースで、第2試合にも出たチャン・ウジンである。
第1セットから互いに譲らず、いきなり10-10のデュースとなる。
いきなり山場を迎えたが、14-12で制したのは水谷であった。

第2セットになると、チャンのフォアからの強打にも下がらず、カウンターで打ち返す。
そうかと思うと、ネットぎりぎりに落とすストップで翻弄した。
さらにサーブ権を握ると、強烈な下回転のキレキレのサーブが相手を苦しめる。

相手の戦い方を観察し、臨機応変に戦術を組み立てる水谷の変幻自在の卓球。
その引き出しの多さに感心させられる。

第3セットも水谷が圧倒し、10-4とマッチポイントを握った。
だが、ここからチャン・ウジンも意地を見せ、4連続ポイントで巻き返す。
10-8と差を詰められたが、最後はフォアの強打で銅メダルを決めた。
最後まで、水谷隼は攻める姿勢を貫いた。

おそらく最後のオリンピックになる集大成の大会のラストマッチで、一球一球を噛みしめながら、魂を込めてショットを打つ水谷。
卓球人生の全てを凝縮させたかのような戦いに、深い感銘を受けずにはいられない。

後輩へ託した想い

今回対戦したチャン・ウジンには、これまでシングルスの戦いで0勝2敗と分が悪い。
思えば、リオ五輪準決勝でも対戦成績で1勝15敗のボルを相手に、ここ一番の勝負強さで勝ち切った。

水谷隼は張本智和に「エースとは何か」という命題を、背中で伝えたのではないか。

張本は試合後に語った。
「水谷さんがいてこその日本。リオからの5年、水谷さんには感謝しかない」

張本は銅メダルが決まった瞬間、脱兎のごとく水谷に駆け寄り、抱き付いた。
このシーンには、日本のエース張本の、水谷への熱き思いが詰まっていたように思う。
エースというポジションの孤独、責任、苦しさは、その立場になって初めて分かる。
その重責を長年にわたり担ってきた水谷の本当の偉大さは、張本にしか理解できない。
だからこそ、あの場面はとても尊いものを見た気がした。

水谷は言う。
「パリでは後輩たちに金を目指して欲しい」
その先達の思いを後輩が継承し、伝統が作られていく。

それにしても、今回の日本チームは女子もだが、男子も素晴らしいチームだったと思う。
スウェーデン戦では丹羽が活躍し、準決勝進出の原動力となる。
その準決勝では敗れはしたものの、張本がエースの意地で2勝した。
そして、3位決定戦では、水谷が見事に卓球人生の集大成を成し遂げたのだ。
誰ひとり欠けても、メダルを手にすることは出来なかったかもしれない。

長きにわたり日本卓球界を牽引し、卓球日本をここまで復活させた中興の祖。
そんな水谷隼には感謝とともに、お疲れ様の言葉でねぎらいたい。 

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