2021全英オープンゴルフ“素晴らしき勝者”コリン・モリカワ




昨年は新型コロナウイルスの影響により中止となった全英オープンゴルフだが、今年は無事イングランドのロイヤル・セントジョージズ・ゴルフクラブで開催された。

例年、リンクスを舞台に行われる大会は強風と雨が選手たちに試練を与えるが、今年は珍しく4日間にわたって天候に恵まれる。

そんな中、最古の歴史を誇るメジャーを制したのは、弱冠24歳の若者コリン・モリカワであった。
この日本人の血を受け継ぐツアーきってのナイスガイは、プレーだけでなく人柄においてもファンを魅了した。

コリン・モリカワとは

コリン・モリカワは1997年2月6日に生まれた、アメリカ・カルフォルニア州ロサンゼルス出身のゴルファーである。
父方の家系に日本人の血が流れている日系4世だ。

文武両道を地でいく彼は、アメリカでも有数の名門校であるカリフォルニア大学バークレー校を2019年に卒業し、すぐさまプロに転向する。
大学時代にアマチュア世界ランキング1位に輝いたモリカワは、プロデビュー後わずか6戦目にしてPGAツアーで初勝利をあげた。

翌2020年には、初出場の全米プロで優勝し、世界を驚かせる。
そして、今回の全英オープンでも初出場で栄冠を勝ち取った。
初出場でメジャー大会を2度制したのは、タイガー・ウッズをはじめとする歴史的名ゴルファーでも成し遂げていない史上初の快挙であった。

コリン・モリカワの特徴としては、プロ入り後22戦連続予選通過を果たしたように、安定感抜群のプレーにある。
一時は、プロ入り後の連続予選通過記録であるタイガー・ウッズの25戦を超えるのではないかと噂されもした。
そして、175㎝と小柄ながら、切れ味鋭いアイアンショットはPGAツアーでもトップクラスの精度を誇り、ショットメーカーとして一目置かれている。

優勝争い

まず予選ラウンドの2日目までで首位に立ったのは、南アフリカのルイ・ウーストヘイゼンである。
初日を6アンダー、2日目も5アンダーで、合計11アンダーとスコアを順調に伸ばす。
しかも、ここまでノーボギーという全く危なげない盤石のプレーである。

実は、ウーストヘイゼンは2010年の全英オープンで2位に7打差をつけ初優勝を遂げている。
この時の鮮烈な記憶が残る実況席からは、このまま独走態勢に入るのではという声もあがっていた。
3日目の後半からは少しショットが乱れたものの、トータル12アンダーの首位で最終日を迎える。

それを追いかけるのが11アンダーのコリン・モリカワと9アンダーのジョーダン・スピースであった。
ただ、スピースは3日目の最終ホールでショートパットを外し、ボギーにしたことが後々響かなければよいのだが…。

3者ともメジャー大会の優勝経験がある実力者であり、誰が勝ってもおかしくない。
そこに今年の全米オープン王者ジョン・ラームも肉薄するなど、上位陣にビッグネームが顔を揃える興味深い大会となった。

最終日

最終組は前日に引き続き、ウーストヘイゼンとモリカワの組み合わせとなる。
その1つ前の組にスピースが回っていた。

ウーストヘイゼンは全英オープンの勝利以外では、ここまでメジャーで実に6度2位になるなど、惜しい戦いが続いていた。
それを物語るように、最終日はボギーが先行する苦しいゴルフとなる。
特に、チャンスホールの7番ロングホールでバンカーからのショットがホームランになり、ボギーを叩いたのが痛かった。

一方のモリカワは、前半の6番までは静かな立ち上がりをみせ、確実にパーをセーブしていく。
そして、ウーストヘイゼンとは対照的に、7番のチャンスホールでバーディをものにする。
すると、それを皮切りに3連続バーディを奪い、あっという間に首位に立つ。

ウーストヘイゼンに代わって浮上したのが、ジョーダン・スピースである。
序盤はショットが曲がり、2ストローク落とすなど暗雲が垂れ込める。
しかし、7番でイーグルパットを捩じ込むと、9、10番と連続バーディで息を吹き返す。

スピースは若くしてメジャーを制覇し、世界ランキング1位の座にも上り詰めるなど、タイガー・ウッズの後継者と目されていた。
全英オープンでも2017年にマット・クーチャーとの激闘を制している。
だが、その優勝を最後にスランプに陥り、しばらく勝利から遠ざかっていた。

実は、このスピース。調子を落としていたのは、手の怪我が原因だったのである。
だが、怪我を公表することなく試合に出続けた。
怪我のことを黙っていたのは「言い訳をしたくない」という理由であり、大したゴルファーだと感心したことを覚えている。
今年に入り怪我が癒え、4年ぶりのツアー優勝を飾るなど復調著しい。

ほかの上位陣が伸び悩む中、次々とパットを決めていく20代の若者同士の優勝争いとなる。
中でも、モリカワにとって非常に大きかったのが、10番での長いパーパットを入れたことだろう。
7番ホールから3連続バーディで波に乗った直後に迎えたインの最初のホール。
ここで躓くと、勢いを落としかねない重要なターニングポイントだったのだ。

それにしても、まだ24歳だというのにコリン・モリカワという選手は何という精神力なのだろう。
すでに全米プロでメジャー制覇をしているとはいえ、最終日のバックナインに入っても全くスイングやリズムが変わらないのは驚きである。
通常はトップに立つと勝利を意識するあまり、どうしてもプレーに変化が出てしまう。
だが、その精悍な表情には自分のゴルフをすることだけに集中しきっている気配が漂い、全くぶれることがない。

そして、メジャーで勝つために必要不可欠な運も味方した。
13番と15番では、あわやバンカーかというショットが際どく難を逃れたのである。

スピースの猛追を受けながらも、プレッシャーがかかる場面で何度も痺れるパットを決めたコリン・モリカワは、まさしく全英オープンチャンピオンの称号にふさわしい新時代のスターである。

まとめ

伝統の優勝トロフィー「クラレットジャグ」を高々と掲げるコリン・モリカワ。
全世界がコロナ禍に苦しむ中、第149回全英オープンを制したのは、あまりにも爽やかな好青年だった。

コリン・モリカワは栄光の「クラレットジャグ」を大事に抱えながら、マイクに向かう。
「人生で最高の瞬間です」

雲ひとつない青空のような笑顔で第一声をあげる。
さらに、家族や友人への感謝とともに、ちょうどその日が誕生日のキャディにも真摯に礼を述べた。

そして、全英オープンチャンピオンはギャラリーに向かって語りかける。
「ここに一緒に来た家族や友人に“ありがとう”と伝えてください」
スピーチに耳を傾けていた観客から割れんばかりの拍手が鳴り響く。

プロ入り後、まだ2年のゴルファーに私は感嘆した。
きっと、コリン・モリカワという青年は生まれ持った人間性だけでなく、素晴らしい両親や友人に恵まれてきたのだろう。
彼には、善き人々に囲まれて真っ直ぐに育った者だけが持つ、清々しい空気を感じるのだ。
そうした環境があればこそ、支えてくれた人々に対して素直に自らの思いを口にすることができ、観客にも感謝の心を言葉にする大切さを伝えることができたのだろう。

“素晴らしき勝者”コリン・モリカワ。
心技体が揃うこの若者には未来が翼を広げ、どこまでも夢と希望が続いている。

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