本稿は50歳にして、これまで未経験の塾講師を志したアラフィフの体験談です。
講師として子ども達と関わる中で、気付いたことや所感を述べていこうと思います。
今回は塾講師生活で最も嬉しかったことを認めます。
感無量
この時期になると、思い出すことがあります。
それは合格という生徒からの吉報です。
その子は、私がメインで受け持っていた中学3年生であり、難関校の推薦合格を目指していました。
授業が終わった後も自習室で熱心に取り組む姿勢を見るにつけ、頭が下がる思いを抱かずにはいられません。
話を聞くと平日でも4時間前後、休みの日に至っては8時間以上も勉強していたそうです。
そんな様子に触発され、私も一緒に残り、分からない問題を指導することもありました。
授業中も単に勉強のことだけでなく、部活や推薦入試の面接対策、果ては哲学にまで話題が及びます。
普通、中学生相手には哲学的な小難しい話など、できるはずもありません。
しかし、その子は非常に精神年齢が高く、かえって興味を覚える様子です。
このように、今まで私が受け持った中で最も相性が良く、深い信頼関係を構築できた生徒といえるでしょう。
推薦入試が終わり、合格発表当日。
その日は、ちょうど私がその子を受け持つタイミングが重なります。
夕刻、塾に現れ塾長に何言かを告げると、私のもとにやって来ました。
「無事合格しました!先生のおかげです!!」
私は感無量の思いが込み上げました。
これほどの喜び、感動はこれまで従事してきた仕事ではありません。
はっきり言って、誰が受け持ってもその子は合格したでしょう。
それぐらい素晴らしい生徒でした。
たとえるならば、競馬の最高峰ダービーを比類なき絶対能力で完勝したキングカメハメハのような盤石さです。
鞍上の“アンカツ”こと安藤勝己曰く、「誰が乗っても勝てる馬。それがキングカメハメハですよ」という言葉がピッタリな生徒でした。
にもかかわらず、その生徒は心から感謝の意を表し、謙虚に頭を下げているではありませんか!
私の貢献などほんの僅か、微々たるものにすぎないにもかかわらず…。
楽しみな将来
勉強だけでなく、人格も素晴らしい。
なかなか二つ揃うことは、難しいのが人の常でしょう、
ですが、その子は15歳にして謙虚さも併せ持つのですから、一体どれほど前世で徳を積んできたのでしょうか(笑)
おそらく、アラフィフの私も一生その境地にはたどり着けないこと受け合いです。
私はその子と接するうち、あるドラマを想起します。
それは『BARレモン・ハート』の一節です。
BARレモン・ハートのマスターと20年ぶりに再会を果たす、大学で教鞭を取っていた久保田先生。
先生は、マスターに問いました。
「マスター。世の中にはたくさんの出会いがある。その中で、最も良い出会いは何だと思う?」
小首を傾げるマスターに久保田先生は言いました。
「それは再会だよ。立派に成長した君を見て、私は心の底から嬉しい」
私ぐらいの年齢になると、なかなか新しい出会いはありません。
ですが、塾講師という仕事は“社会の宝”子どもたちとの出会いに溢れています。
そして、将来どんな大人になるのか楽しみな子どもも存在し、その代表格が今回紹介した生徒です。
「いつの日か再会し、立派に成長した姿を目にしたい」
そんなささやかな願いが叶う日に、久しぶりに思いを馳せました。