パリ五輪③ 五輪連覇!男子81㎏級永瀬貴規 〜堂々たる王者の柔道〜





パリ五輪柔道4日目。

男子81kg級で、永瀬貴規が東京大会に続く五輪連覇を成し遂げた。
リオ大会の銅メダルから3大会連続のメダル獲得となり、男子では野村忠宏以来の快挙となる。

これで柔道は4日連続のメダルとなった。

苦しんだオリンピックロード

永瀬は毎回のように、オリンピックに向けて苦労している印象がある。
東京五輪前には前十字靭帯を負傷し、1年もの間、柔道から離脱する。

今回もパリ五輪を迎えるにあたり、いい所までいくものの勝てない日々が続き、ようやく今年3月に東京五輪以来となる国際大会での優勝を果たした。
この長いトンネルの期間も永瀬は決して腐らず敗者復活戦を勝ち上がり、表彰台を確保する。

そして前回同様、オリンピック本番に照準を合わせ、最高の柔道を展開していった。

パリ五輪

前回の東京大会では全5戦中4試合が延長にもつれ込むなど、まさに粘りに粘って勝ち取った金メダルだった。
それに比べ、今大会の永瀬貴規の勝ち上がりは安定感抜群である。
延長戦もあったが、危ない場面は皆無だったのではないか。

私は、この事実に驚きを禁じ得ない。
なにしろ男子81kg級という階級は全階級の中で最も激戦区で、誰が勝ってもおかしくない。
それを裏付けるように、私は今大会で男子81kg級が観ていて一番おもしろかった。
準々決勝以降は毎試合が熱戦で、せこい掛け逃げもほとんどなく、改めて本階級の選手層の厚さを痛感する。

そんな強豪揃いの中にあって、我らが永瀬貴規の強さは圧巻だった。
世界ランキングNo.1のカッセを横綱相撲で押し切ると、準決勝では“曲者”エスポジトも投げ捨てる。
迎えた決勝戦、世界選手権三連覇中の優勝候補筆頭・グリガラシビリから一本を取り連覇を成し遂げる。
比類なき組手の強さから終始主導権を奪い、あの怪力無双の王者に何もさせず圧倒した。
ここにオリンピック史上初となる、男子81kg級での連覇が果たされた。

永瀬貴規が胸に秘める柔の心。
その素晴らしきものの存在を、我々は優勝決定直後に知ることとなる。
誰もが相好を崩す瞬間に、永瀬貴規の表情は全く変わらない。
対戦相手をはじめとし四方に礼をすると、畳を降りた。

きっと永瀬は、対戦相手への礼を逸したくなかったのだろう。
かつて、先輩の大野将平がそうだったように。
永瀬貴規にも間違いなく“日本柔道の精神”が継承されている。

永瀬貴規という男

オリンピック王者に対して大変申し訳ないが、永瀬貴規は地味である。
ルックスも柔道も、阿部一二三のような派手さや華はない。
だが、永瀬貴規には謙虚さと実直さがある。
大騒ぎせず、出しゃばらない。
そんな永瀬に私は好感を抱かずにいられない。

私は永瀬貴規という柔道家の姿に、“将棋界の巨人”大山康晴十五世名人の言葉を思い出す。

「平凡は妙手に勝る。派手なことは長続きしない」

どうだろう。
永瀬にピッタリだと思うのは私だけだろうか。

野村忠宏や阿部一二三のような天稟を感じさせる技のキレはない。
しかし、組手・攻め・受けの全てにおいて弱点が見当たらない。
解説を務めた大野将平が「全てが高いレベルにある」と称賛するのも、むべなるかなである。

私は特に組手の強さに感心した。
長いリーチを活かし、いつのまにか右で釣り手を、左で引き手を引く十分な体勢を築いている。
それも、粘り強く何度でも。
それを培ったのは、大野や全日本監督・鈴木桂治が舌を巻く練習量だろう。

努力は人を裏切らない。
今の時代には忘却の彼方に消えゆく、コツコツと積み重ねていくひたむきさが永瀬貴規を栄光に導いた。

まとめ

“日本柔道の至宝”大野将平は現役時代から同じ旭化成に所属する後輩、永瀬貴規を評し常々言っていた。

「永瀬貴規が一番強いんです」

この言葉を図らずも、有言実行で証明してみせた。

五輪連覇の偉業にも、最後まで礼節を守り通した真の柔道家。
そんな永瀬貴規の姿に、失われつつある日本人の美徳を見た思いがした。

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