パリ五輪⑦「競泳女子」偉大なる女王たちの競演





パリ五輪「競泳競技」の全日程が終了した。

水深の浅いプールの影響もあってか、世界記録がそれほど出ない大会となる。
しかし、世界最高峰の舞台ならではの手に汗握るレースが数多く見られた。

中でも、新旧女王たちの圧巻の泳ぎには深い感銘を受けずにはいられない。

女子400m自由形

世界のトップスイマーが集うパリ五輪だが、競泳女子400メートル自由形ほど豪華なメンバーはいないだろう。
なにしろ、本種目の新旧世界記録保持者が3人も集結したのだから。

現女王にして世界記録保持者のアリアン・ティットマス(豪)。
彼女は200・400メートル自由形を得意とする。

生ける伝説ケイティ・レデッキー(米)は800・1500という長距離種目の頂に君臨し続けている。
今大会も健在ぶりを見せつけた。

一昨年、わずか15歳で世界の競泳界を席巻したサマー・マッキントッシュ(加)も今や17歳になった。
というか、まだ17歳というべきか。

昨年の世界水泳では調子が上がらずティットマスに完敗したマッキントッシュだが、今日は世界記録ペースで飛ばすティットマスにピタリと並走する。
さすが元世界記録保持者である。
一方、レデッキーは離されていく。
金メダルは厳しくなったか。

ゴールが近づくにつれ、マッキントッシュも徐々に水を開けられる。
スピードのみならず、スタミナにも自信を持つティットマスはそのまま先頭でゴールした。
銀メダルはマッキントッシュ、レデッキーは何とか表彰台を確保する。

レースも勿論だが、表彰式の光景に私は改めて歴史の目撃者であることを実感する。
表彰台に上がった3人はいずれも競泳史に名を残す女王であり、これほどの名選手が一同に介す表彰式は記憶にない。
なにしろレデッキーに至っては、2012年のロンドン五輪から出場しているのだ。
マッキントッシュも今大会3冠を達成するなど、とても17歳とは思えない。
何よりも、競技を終えた彼女たちの爽やかな笑顔が見る者全てを魅了した。

私は常々思っていることがある。
それは、競技だけでなく表彰式までがひとつの作品だと。

真夏の日差しにも負けない女王たちが奏でた白熱の戦い。
フランス・パリで伝説がまたひとつ誕生した。

サラ・ショーストロム

サラ・ショーストロム。
その名を耳にするたび、私だけでなく多くの日本の競泳ファンが彼女に感謝する。
なぜならば、親友の池江璃花子が白血病になったとき、温かいエールを送ってくれたのが彼女だったのだ。

競泳女子100m自由形にショーストロムは出場したが、オーストラリア勢のオキャラハンとジャックが有力視されていた。
特にオキャラハンは今大会、200m自由形でティットマスを破っている。
そんな中、30歳のベテラン・ショーストロムが金メダルに輝いた。

世界記録保持者のショーストロムには申し訳ないが、正直100m自由形での優勝は難しいと思っていた。
さらに言うならば、表彰台すら微妙だと予想していた。
近年の実績からも、チャンスがあるならば50mの方だろうと。

ところが、前半のターンを4位で折り返すと、後半にかけて先頭争いを演じていく。
レース終盤に強いオキャラハンに注目していた私を嘲笑うかのように、伸びてきたのがショーストロムだった。

そして、本命の50m自由形。
間もなく31歳になるショーストロムは、昨年世界記録を更新した。
未だ進化し続けるレジェンドは準決勝、世界記録から0秒05差のオリンピックレコードを打ち立てる。
迎えた決勝レース。
意外にもオリンピックでは本種目での勝利はなかったが、ついに念願の金メダルを獲得した。

思えば、14歳で初出場した2008年北京五輪から16年もの歳月が経っている。
5大会連続出場だけでも凄いのに、金メダリストに輝くとは…。
表彰台の一番高い場所で国歌を聴く、ショーストロムの表情は実に穏やかだ。
年輪を重ねた趣にも風情がある。

継続は力なりを体現するサラ・ショーストロム、会心の泳ぎであった。

ケイティ・レデッキー

400m自由形でも勝負できるレデッキーだが、本職は長距離種目である。
女子1500m自由形に登場すると、割れんばかりの大歓声が鳴り響く。
地元フランスの選手以外で、ここまでの大声援が響くのは彼女しか見当たらない。

長らく無敵の女王として君臨するレデッキーは、今回も一人旅を謳歌した。
まずは自身の持つ世界記録を上回るペースで入り、100mのターンで早くも2位以下に体1個分以上の差をつける。
レース開始後500mまでは世界記録ペースで泳ぐと、最後は後続を画面に映らないほどブッチ切り、連覇を成し遂げた。
その渾身の泳ぎは、東京大会で自身が打ち立てたオリンピックレコードを5秒以上更新するものだった。
27歳にして3年前の己を超えていく、女王レデッキーには脱帽だ。

前回までの出場3大会で金メダル7個、メダル合計は11個を数えるレデッキー。
さらに今大会、本種目と800m自由形で金、400m自由形で銅メダルを上積みする。
特に800m自由形におけるオリンピック競泳女子史上初となる4連覇は、偉業以外の何ものでもない。

27歳のレデッキーは言う。

「金メダルを獲ることは決して簡単なことではない。年齢を重ねるごとに様々な課題が出てくるが、楽しむようにしている」

彼女は本当に泳ぐことが好きなのだろう。
ロス大会も視野に入れる「水の女王」ケイティ・レデッキーには目が離せない。

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