世界水泳福岡2023の競泳競技は5日目を終えた。
数々の世界記録が大会に華を添え、大きな盛り上がりを見せている。
本稿では世界的名選手たちの好勝負を中心に、大会4・5日目の熱戦をお届けする。
1. 女子200m自由形
今大会、男子の目玉が18歳のダビド・ポポビッチならば、女子のヒロインは16歳のサマー・マッキントッシュだろう。
女子400m自由形では、アリアン・ティットマスの世界記録の前に4位に敗れた。
その両者が再び200m自由形で相まみえる。
実は本種目。
ふたりの他にも、オキヤラハンとホーヒーも優勝候補に名を連ねている。
レースが始まると、ティットマスが世界記録ペースで飛ばす。
昨年の世界水泳100m自由形の女王オキヤラハンの、ラスト50のスピードを警戒しての作戦かもしれない。
その後を優勝候補のライバル3名が追いかける。
150m手前で、ややオキヤラハンが遅れた。
ティットマスとマッキントッシュの一騎打ちかと思いきや、残り50mを切り猛然とオキヤラハンがスパートする。
並ぶ間もなくマッキントッシュを抜き去ると、濁流のようにティットマスも呑みこんだ。
タイムは1分52秒85、世界新記録である。
2位のティットマスも世界記録に100分の3秒差に迫る1分53秒01を出す、これぞ世界最高峰といったハイレベルな戦いであった。
マッキントッシュも自己ベストを更新し、銅メダルを獲得する。
50m背泳ぎを棄権して、本種目にかけてきたモリー・オキヤラハン。
19歳のヒロインは、高速水着時代の世界記録1分52秒98を14年ぶりに破る会心のレースを展開した。
2. 男子200mバタフライ
今回は絶対王者クリストフ・ミラークが欠場し、日本の本多灯に悲願の金メダルの期待がかかる。
最大のライバルは、“新水の怪物”レオン・マルシャンだ。
400m個人メドレーで銀メダリストとなったフォスターも強力なライバルといえるだろう。
最初の50mは、ほぼ横一線と感じで始まった。
本多は3位、マルシャンは5位で最初のターンをする。
徐々に順位を上げるマルシャンが、100mの折り返しで早くも首位に立つ。
本多はマルシャンに0秒7遅れの4位で通過した。
だが、後半型の本多は理想的なラップを刻んでいる。
スムーズに加速する本多は150mのターンで、マルシャンを0秒39差まで追い詰めてきた。
金メダルへの期待が膨らむ中、やはりマルシャンは体一つ抜け出してリードを広げていく。
終わってみれば、盤石なレース運びのマルシャンが横綱相撲で押し切った。
銀メダル争いはタッチの勝負となったが、2位フミレウスキと100分の4秒差で本多は銅メダルと相成った。
必ずしも本調子とはいえない中、見せ場たっぷりのレースで盛り上げた本多灯。
「メダルがとれて嬉しい。マルシャンに年々離されていることに悔しさはあるが、自分ができることを確かめながら来年のパリに繋げたい」
爽やかに、そして力強く語る本多灯には来年のパリ五輪に期待したい。
3. 男子200m個人メドレー
男子200m個人メドレーでは、日本から瀬戸大也と小方颯が登場する。
だが、最も期待がかかるのは、やはりレオン・マルシャンだろう。
400m個人メドレーで“水の怪物”フェルプスの記録を1秒以上更新する驚異的な世界記録を打ち立てた。
あの泳ぎは、人類が希求する「見果てぬ超人願望」を体現した。
第一泳法のバタフライ、余裕をもってマルシャンは3位でターンした。
続く、背泳ぎで早くも先頭争いに顔を出す。
そして、平泳ぎに移ると一気に抜け出した。
ラストの自由形、マルシャンはクロールで一人旅。
独走態勢を築いたまま、ゴール板にタッチした。
ゴールタイムは1分54秒82!
人類史上、ライアン・ロクテとマイケル・フェルプスしか到達していない1分54秒台をマークした。
その選ばれし者だけが鎮座する領域に、再びレオン・マルシャンは足を踏み入れた。
4. 男子100m自由形
この種目には、何といってもダビド・ポポビッチが登場する。
200m自由形では前半から果敢に攻めるも、後半失速し4着に沈む。
泳ぎ込み不足が懸念される中、否が応でも注目が集まった。
ケーレブ・ドレセルの欠場は残念だが、今年はカイル・チャルマーズ(豪)が参戦する。
リオ五輪のチャンピオンとなり、東京五輪でもドレセルとの激闘は大会屈指の名勝負となった。
今大会もアンカーでリレーに出場し、見事な泳ぎで母国に金メダルをもたらした。
加えて、今大会の200m自由形の金メダリスト、マシュー・リチャーズも参戦する豪華メンバーとなる。
準決勝までのタイムを見る限り、上位陣は誰が勝ってもおかしくない大混戦が予想された。
名勝負の予感が走る中、決勝レースがスタートする。
横一線からアレクシーが世界記録を上回るペースにギアを上げ、トップで折り返す。
だが、最後方のチャルマーズまで0秒56差しかない。
逃げ切りを図るアレクシーに対し、5レーンを泳ぐ黄色いスイミングキャップが猛追する。
後半に絶対の自信を持つカイル・チャルマーズだ。
ゴール前で捉えると、そのままトップでなだれ込む。
最後尾から世界のトップスイマーたちを一刀両断したチャルマーズの切れ味。
タイムも今シーズンNo.1となる47秒15と、レベルの高さを証明した。
思えばチャルマーズは金メダルを獲得した翌年、心臓病の手術を受けるなど、厳しい道のりを歩んできた。
その苦難の末、オリンピックに続き世界水泳も制覇した。
期待のポポビッチは6位に沈む。
200m同様、後半に失速した姿から本調子では無かったのだろう。
しかし、来年のパリ五輪には必ずや雄姿を見せてくれるに違いない。
まとめ
他にも、女子200mバタフライでサマー・マッキントッシュが今大会初の金メダルを獲得した。
また、女子50m背泳ぎでは、100に続きカイリー・マキュオンが優勝する。
残る200 mに3冠がかかる。
そして、手に汗握るデッドヒートを演じたのが女子4×200mリレーだった。
オーストラリアの圧勝劇かと思われた中、案の定、第一泳者のモリー・オキャラハンが大量のリードを築く。
ところが、アメリカの第2泳者ケイテイ・レデッキーが圧巻の泳ぎをみせ、オーストラリアに肉薄した。
最後は、400mで世界新記録を樹立したティットマスの力泳により、オーストラリアが世界新記録を更新し優勝する。
だが、アメリカチームの善戦、とりわけ“水泳界の生ける伝説”レデッキーの頑張りは胸を打つ。
連日、素晴らしい好レースを見せてくれる選手たち。
まだ福岡の夏は終わらない。