「パリ五輪」競泳競技において400mに続き200mでも、男子個人メドレーを圧勝したレオン・マルシャン。
とりわけ200m個人メドレーでは、世界記録からわずか0秒06に迫るオリンピックレコードを樹立した。
この記録は“水の怪物”マイケル・フェルプスの五輪記録を上回るものだった。
そんなマルシャンは200mバタフライと200m平泳ぎも制し、大会4冠に輝いた。
男子200mバタフライ
2019年以降、男子200mバタフライでは絶対王政が敷かれていた。
その絶対王者とはハンガリーのクリシュトフ・ミラークである。
東京五輪をはじめとし、数々の国際大会で向かうところ敵なしの様相を呈している。
しかし、今回は少しだけ好レースを期待した。
それはレオン・マルシャンの存在である。
本職の個人メドレーだけでなく、最近は200mバタフライでもメキメキと力を付けてきた。
それに加えて、ミラーク自身が絶好調とはいえない仕上がりなのである。
地元開催の大声援に後押しされ、レオン・マルシャンが入場する。
一方、クリシュトフ・ミラークはふてぶてしいまでに辺りを睥睨し、スタート地点に着く。
レースが始まると自身が持つ世界記録からは少し遅れるが、快調に先頭を泳ぐミラーク。
いつもどおりの光景に見えるが、今日はマルシャンが体半分の距離で追いかける。
とはいえ、ラスト50mで0秒72の差がついており、マルシャンの善戦もここまでかと思われた。
ところが、マルシャンはターンしてから水中でのドルフィンキックで一気に差を詰め、王者ミラークに猛然と襲いかかる。
プールの中央で並びかけると、そのまま差し切った。
タイムの出にくいプールにもかかわらず、オリンピック新記録のおまけ付きである。
ミラークもシーズンベストを出しており、そこまで悪いレースをしたとは思えない。
レオン・マルシャンが素晴らしいの一言に尽きるだろう。
新しい時代の扉が開いた瞬間だった。
男子200m平泳ぎ
マルシャンは、ミラークを倒した同日1時間50分後に再び現れた。
200m平泳ぎの決勝レースに出場するためである。
この種目にはザック・スタブルティ クック(豪)という、東京大会を制した元世界記録保持者が控えている。
序盤から世界記録より速いタイムで果敢に攻めていくマルシャン。
いつもはラスト50まで後方待機するスタブルティ クックだが、今日は早めに進出を開始する。
最後のターンが終わり、各選手とも一斉にラストスパートの体勢だ。
だが、スタブルティ クックはマルシャンとの距離が縮まらない。
スタートダッシュを決め、そのまま先頭を譲らず泳いだマルシャンが金メダルを勝ち獲った。
またもやオリンピックレコードを叩き出す。
終わってみれば、あのスタブルティ クックに1秒近い差をつけている。
200mバタフライで泳いでいなければ、世界記録も狙えたかもしれない圧巻のレースを展開した。
大会の主役
2年前の世界水泳で、当時20歳のマルシャンは200・400の個人メドレーを制し世界を驚かす。
特に、400はフェルプスの記録も視野に入る好タイムをマークした。
それ以降、個人メドレー以外でも頭角を現し、パリ五輪では大会の主役となる。
フランスはリレー種目での金メダルが難しい。
なので、マルシャンの金メダル4つは全て個人種目である。
前回大会で競泳競技の主役となったケーレブ・ドレセルは5冠を達成したが、個人種目では3冠だった。
高速水着時代にフェルプスがマークした400m個人メドレーの世界記録を昨年更新したマルシャン。
ロクテが持つ200m個人メドレーの世界記録も、そう遠くないうちに破るだろう。
そんなマルシャンは、唯一マイケル・フェルプスと比肩しうる存在といえるかもしれない。
もちろん、フェルプスのように長きにわたり世界の競泳界に君臨し続けることが条件となるが。
早くも、次のロス五輪での活躍が待ち遠しい。
まとめ
女子のサマー・マッキントッシュにもいえるが、400m個人メドレーのチャンピオンは200mバタフライでも無類の強さを見せる。
しかもマルシャンは平泳ぎでも頂に立ったのだから、世界最強スイマーと呼べるだろう。
そして、もうひとつ。
移民をはじめ多民族が集うフランスでは、様々な形で分断が噴出している。
にもかかわらず、肌の色が違う観客が“英雄”の快挙に肩を抱き合い、喜びを分かち合う。
その光景にマルシャンの存在の大きさを実感する。
まだ22歳と前途洋々のレオン・マルシャン。
その才能はどこまで開花するのか、非常に楽しみである。