50歳の新人、先生になる 第15回「名将に見る指導法」





これは50歳にして、これまで未経験の塾講師を志したアラフィフの体験談です。

講師として子ども達と関わる中で、気付いたことや所感を述べていこうと思います。

当記事が塾講師として奮闘している方や、子を持つ親御さん達の一助になれば幸いです。

共通点

まだ短い塾講師生活ですが、英語が赤点未満の生徒には必ず共通点が存在します。
時々平均点前後の生徒にも見られますが、三人称単数を理解できていないことが挙げられます。
というか、そもそもbe動詞すら怪しく、人称代名詞や指示代名詞もおぼつきません。
当然、単語も驚くほど分からないのは言わずもがなでしょう。

とはいえ、英単語は本人に頑張ってもらうしかないので、私はテキストの単元を進める傍らで三人称単数やbe動詞など、基礎中の基礎を繰り返し説明しています。
中には入試が間もない時期にもかかわらず、三人称単数が初耳だと言う生徒もいました。
これでは赤点をクリアできないのも当然です。

よく数学も積み重ねの教科だといわれますが、2次方程式や因数分解が苦手でも図形になるとカテゴリーが異なるため、途端に水を得た魚のようになる生徒も見かけます。
ですが、英語は1年次からの基礎を疎かにすると、絶対と言ってよいほど分からなくなってしまいます。
私見ではありますが、取り返すのは英語の方が難しいのではないでしょうか。

県立高校の入試では2年生までの単元で7~8割を占める場合もあるため、とにかく分からないところに戻り基礎固めをするのが効果的だと思います。
そもそも1~2年の内容についていけなかった者が、関係代名詞や複雑な文型について分かる由もないでしょう。

「悲運の闘将」に見る指導法

残念ながら、熱を込めて何度説明しても、なかなか覚えてもらえないのが実情です。
説明を聞いた直後は理解できた様子でも、一週間経つとあやふやになってしまうことなどしょっちゅうです。
正直、諦めの誘惑に駆られることも一度や二度ではありません。

ですが、そんなとき思い出すのが、元プロ野球監督で「悲運の闘将」と呼ばれた西本幸雄です。
8回も日本シリーズに出場しながら、ついに一度も日本一になれなかったこともあり、この二つ名がつくことになりました。

西本は選手に対し、厳しくも温かい眼差しを送り続けます。
西本幸雄ほど選手に愛情を注いだ指導者を知りません。
そして私が知る限り、西本以上に選手から慕われた監督もいないでしょう。

西本は監督でありながら、選手のバッティング練習にもとことん付き合いました。
それこそ1時間でも2時間でも、愛弟子にトスを上げ続けます。
ところが一転、たるんだ態度の選手には容赦なく鉄拳制裁を下すのです。
一方で、懸命にバット振る選手には手を上げません。
それどころか、出来ないことを責めることはせず、根気強く何度も修正箇所を指導していきました。
まさに西本幸雄こそ、「愚直のダンディズム」を体現した名将といえるでしょう。

苦労を厭わず選手を育てた西本に敬意を抱く私が、学ぶ姿勢のある生徒を見捨てるわけにはいきません。
人に教える立場になり、改めて実感します。
「悲運の闘将」西本幸雄の偉大さを。

そんな西本監督は8度目の日本シリーズに惜敗した翌日、こう呟きます。

「何が悲運や。わしほど幸運な者はいない」

西本幸雄は誰よりも、選手への感謝を忘れない監督だったのです。

私はこの発言に深い感銘を受けました。
もちろん手に余ったり、相性が良くなかったりする生徒もいます。
しかし、ほとんどの子どもは駆け出しの私の話でも、真剣な表情で耳を傾けてくれています。
これは本当にありがたい。

私も西本監督と同様に、決して器用なタイプではありません。
西本幸雄の座右の銘に「道のりは遠くても 目標に向かって歩けば 一歩一歩近づくことだけはたしかだ」という言葉があります。
私もこの箴言を忘れずに、奇をてらわず地道に歩んで行ければと思います。