日本時間の3月22日、WBC決勝が行われた。
日本がアメリカを3-2で破り、3大会14年ぶりの優勝を飾る。
二刀流として投打に活躍し、この試合も9回を無得点に抑えた大谷翔平がMVPを獲得した。
決勝 アメリカ戦
決勝戦は手に汗握る、緊迫した好ゲームとなった。
2回表、先発の今永からホームランを放ったアメリカが先制する。
その裏、昨日サヨナラヒットを打った村上が今大会初ホームランを打ち、すかさず追いついた。
そして、ヌートバーの内野ゴロの間に、3塁ランナーがホームに還り勝ち越した。
次の1点がどちらに入るか注目されたが、岡本和真がソロホームランを叩き込み、3-1とリードを広げる。
2点差のまま、8回からマウンドに登ったのはダルビッシュ有である。
だが、大リーグの本塁打王シュワーバーに1点差となる、ライトへのホームランを被弾する。
カウント2-2からストレート、スライダー、カットボールと秘術を尽くすが、ファールとはいえ何度も大飛球を打たれ、投げるボールが無くなった末のことだった。
その直後も難しい球をヒットされるなどピンチを迎えるが、最少失点で抑えた。
9回表、1点リードで登場するピッチャーはもちろんこの人、大谷翔平だ。
最速164kmのストレートが唸りをあげる。
最後は共にエンゼルスで戦うトラウトを、会心のスライダーで三振に打ち取った。
その瞬間、喜びを爆発させる大谷にチームメイトが雪崩のように押し寄せる。
選手、監督、コーチ、スタッフ、そこに集う人々が次々と抱き合った。
MVPは、「日本が世界に誇る二刀流」大谷翔平が文句なしで受賞した。
表彰台に上り、高々と優勝トロフィーを掲げる大谷。
その愛弟子からトロフィーを受け取る侍ジャパン監督・栗山英樹。
そして、胴上げで10度も宙を舞う。
試合後、一人ひとりに「ありがとう」と声をかける姿も誠実な栗山監督らしく、とても印象に残った。
大谷翔平への敬意
世界一の称号を懸けた決勝戦、二刀流の大谷は投球練習のためブルペンに赴いた。
かと思えば、打順が近づくとベンチに戻り、今度は打者として準備する。
極限のプレッシャーがかかる大舞台である。
どちらか片方をこなすだけでも、精神的に疲弊困憊だろう。
にもかかわらず、己の役割を完璧に全うしてみせた。
短期間の中で続く、絶対に負けられない戦い。
思えば今大会、大谷翔平はいつも侍ジャパンを牽引していた。
東京ドームの看板直撃の特大アーチをかければ、160㎞のストレートでバッターをねじ伏せる。
生きている間に、こんな選手が現れるとは…。
ここ数年、大リーグという最高峰で八面六臂の大活躍を見せる大谷。
しかし、今ではすっかり遠い記憶となっているのだが、数々の怪我を乗り越えここまでやって来た。
大リーグに渡った1年目、利き腕である右肘の靭帯を損傷する。
その後は打者として出場したが、シーズン終了後トミー・ジョン手術を受け、肘にメスを入れた。
翌2019年も左膝を痛め手術する。
そして2020年8月、右屈曲回内筋群を損傷し、シーズンの残りは登板できずに終わる。
こうして振り返ると、毎シーズンのように怪我との闘いに苦しんでいた。
そんな艱難辛苦を克服した後の活躍は、御存知のとおりである。
また、二刀流というイバラの道を選んでからというもの、周囲の雑音が耳に入らなかった日はなかったに違いない。
何しろほとんどのプロ野球関係者が、この若者の行く道に懐疑的な眼差しを向けていた。
それでも、従来の野球の常識を超える、漫画の中でしか有り得ない景色に挑み続けていく。
そうした不可能を可能にする努力、そして信念を貫くマインドで野球ファンに夢を見させてくれたのだ。
私はもう一つ、心に残ったことがある。
それは優勝決定後に行われた、地元アメリカによるインタビューだった。
なんと!インタビュアーがアレックス・ロドリゲスとデビッド・オルティーズという、大リーグ史に燦然と輝く名選手達なのである。
時折ジョークを飛ばすレジェンドに、大谷も小気味いい返事で答えていく。
何と言っても、大リーグに対して敬意を払う姿勢が素晴らしい。
「アメリカの野球をリスペクトしている。自分だけでなく日本の選手はみな、お手本にしてここまで頑張って来た。今回はたまたま勝つことができたが、これからもっと高いところを目指したい」
そして、9回の痺れる場面での登板についても言及する。
「このシチュエーションで投げるのは、なかなか無いので緊張した。だけど、この舞台で投げられ、感謝の方が大きかった」
あの緊張感の中、感謝できる大谷翔平のメンタリティー。
以前、緊張を克服するために一番有効なものは、感謝の心を持つことだと聞いたことがある。
さすがは大谷翔平だと深く感じ入った。
オルティーズからの質問が面白い。
「真剣に質問するが…どの惑星から生まれたんだ!?」
周囲を笑いに誘うジョークに大谷も笑みを浮かべるが、それでも真面目に答え始めた。
「日本の田舎というか、チームも少ないようなところです。日本の人達からしても、頑張ればこういう舞台で出来るんだということを示せて、本当に良かったと思います」
かえってシュールに聞こえるが、大谷の誠実な人柄が垣間見える。
大谷を見つめるオルティーズの眼差しがあたたかい。
アレックス・ロドリゲスから、日本時代にメジャーで憧れた選手を尋ねられた。
「今日いたケン・グリフィーJr.もそうですし、ここにいるアレックス・ロドリゲス選手、オルティーズ選手など、僕が小さい頃に見ていた選手達です。今こうやって同じフィールドに立って、インタビューを受けているのも信じられない感覚です。もっともっと自分がそういう立場になれるように頑張りたいと思っています」
大谷の言葉に、相好を崩し大喜びのレジェンドふたり。
オルティーズは思わず大谷を抱擁する。
地元アメリカが敗れたいうのに、終始和やかなムードに包まれた。
それもそのはず、大谷翔平の真摯でけれんみの無い受け答えは、聞いていて清涼感さえ漂った。
加えて、この謙虚さである。
すでに唯一無二の世界的アスリートに上り詰めながら、さらに高みを目指す向上心。
メジャーリーグのレジェンドも虜にする、大谷翔平の爽やかさには脱帽である。
SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男
侍ジャパンの団結力
大谷翔平は言う。
「夢が叶って嬉しい。でも、終わってしまうのが寂しい」
初日から合流したダルビッシュの求心力もあり、侍ジャパンはチームが一つにまとまった。
解説を務めた松坂大輔はかく語る。
「ここまで早く、チームの結束力が高まるのは珍しい。普通はもう少し段階を踏んで、徐々に団結していく。ダルビッシュが率先して、後輩とコミュニケーションを取っていた。この団結は間違いなく、ダルビッシュの存在無くして有り得ない」
大谷だけでなく、他の投手陣も粘り強く投げ抜いた。
村上が打てないとき、吉田を中心に他のバッターがフォローした。
個人的には、今まで見た侍ジャパンの中でも最も素晴らしいチームに感じる。
この優勝は必ずや、次世代へと継承されるに違いない。
最後はこの言葉に尽きるだろう。
侍ジャパン!おめでとう!
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