日本時間の3月21日に行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)準決勝。
“若き三冠王”村上宗隆のサヨナラヒットで、日本はメキシコに6-5で勝利した。
2009年以来、14年ぶりの決勝進出を果たした侍ジャパンは、明日アメリカと世界一の座を懸けた大一番に挑む。
準決勝 メキシコ戦
日本時間の3月21日午前8時、審判のプレイボールの掛け声とともに準決勝が始まった。
先発は日本が佐々木朗希、メキシコがサンドバルで幕を開けた。
立ち上がりから佐々木は2三振、サンドバルは3者連続三振と快調に飛ばす両投手。
均衡が破れたのは4回表だった。
佐々木は二死一二塁から、甘く入った変化球をレフトスタンドに運ばれてしまう。
日本は3点ビハインドの5回裏、岡本和真のあわやホームランかという大飛球をレフトのファインプレーに阻まれる。
さらに再三再四にわたりチャンスを迎えるが、あと一本が出ない。
重苦しいムードが漂う中、吉田正尚の同点3ランが飛び出した。
インコースの厳しいチェンジアップに体勢を崩されながらも、右手一本で薙ぎ払う技有りのホームランだった。
ところが、8回表メキシコに2点奪われる。
苦しい展開が続くが、ここから侍ジャパンが底力を見せつけた。
まずはその裏、山川穂高の犠牲フライで1点差に迫る。
そして、土壇場9回裏。
我々は改めて、野球が筋書きのないドラマであることを思い知る。
先頭の大谷が初球を叩き、右中間への二塁打を放ち出塁する。
この場面で初球から打ちに行く積極性。
そして、ヘルメットを投げ捨て激走する姿に、この試合にかけるひとかたならぬ思いが滲み出た。
セカンド塁上で手を振り上げながら咆哮し、日本ベンチを鼓舞する大谷翔平。
7回にフォアボールを選んだ際も、あのスーパースターが、たかが四球で烈帛の気合を見せつけた。
大谷がフォア・ザ・チームの精神で繋いだからこそ、吉田の起死回生のホームランが生まれたのだ。
続く吉田正尚はきちんとボール球を見極め、フォアボールを選び見事に繋ぐ。
この日も猛打賞の吉田には打撃センスのみならず、卓越した選球眼にも畏れ入る。
無死一二塁で迎えるのは、5番の村上宗隆である。
この日も、村上は3三振で良いところがない。
若き三冠王に日の丸を背負う重圧がのしかかる。
送りバントも考えられる場面だが、栗山監督は村上に運命を託す決断を下した。
村上はファーストストライクから果敢に振っていく。
ファールにはなったが、結果が出ない中でも積極的な姿勢を忘れない。
そして、メジャーリーガーの守護神ガエゴスが投じた3球目。
村上のバットが快音を残すと、センターの頭上を越えた打球はフェンスを直撃した。
二塁ランナーの大谷に続き“令和の韋駄天”周東が一塁から直接本塁に還って来た!
劇的な幕切れに、日本中に歓喜の輪が広がった。
選手達の思い
選手達の思いを乗せたコメントも非常に印象深い。
いくつか紹介する。
大谷翔平
試合後、大谷翔平はかく語る。
「簡単に勝てないとは覚悟していたが、まさかこんな試合になるとは…ムネ(村上)がキツい中、本当にいいバッティングを見せてくれました。フォアボールでもいいんで、必ず塁に出ると決めていた」
そして、村上への質問にはこう言った。
「本当に苦しかったと思う。でも、人一倍バットを振っていました。吉田さんもそうですけど、僕が塁に出れば必ず打ってくれると信じていた」
最後に、明日の決勝戦への意気込みで締めた。
「(明日の登板について訊かれ)源田さんをはじめ、みんな身を粉にしてチームのために頑張ってくれている。全力で準備したいですし、まずは良い展開に持ち込むのが重要だと思うので、1打席目からそういう気持ちで挑みたい」
先頭打者として「必ず塁に出ると決めていた」という発言。
その言葉に、大谷の不退転の決意を感じずにはいられない。
プレッシャーがかかる場面でも、怯まずに強い気持ちで打席に入る精神力。
私の常識では、終盤で1点を追う先頭バッターはボールをよく見ていくのがセオリーだ。
そんな私の浅慮を打ち砕く、大谷翔平の積極性。
そして、大谷翔平は実力もさることながら、とても爽やかだ。
野球選手の中には茶髪にヒゲを生やし、品の無いネックレスを首からぶら下げるなど、お世辞にも子どもたちの見本になるとは思えない選手もいる。
しかし、インタビューへの受け答え、野球に取り組む真摯な姿勢、スポーツマンシップ、どれをとっても大谷翔平は素晴らしい。
“世界に誇る二刀流”大谷翔平。
そんな彼のプレーを見ることができ、我々は実に幸せだ。
SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男
村上宗隆
殊勲のヒットを打った後、今の気持ちを尋ねられる村上。
「何度も三振をして、何度も悔しい思いをして、その中でチームメイトが助けてくれた。最後は僕が決めましたけど、チーム一丸となった勝利だと思ってます」
村上宗隆は明日の決勝について訊かれ、こう言った。
「2009年以来の決勝ですし、ベスト4という壁が凄く難しかった。明日はこのチームでできる最後なんで、最高の決勝戦にしたいと思います」
そして、最後に「(祝福で水をかけられ)ちょっと寒いです(笑)。着替えたいです」と苦笑いでインタビューを終えた。
史上最年少の三冠王に輝き、23歳の若さで日の丸を背負った村上宗隆。
今大会は、その重圧にバットが沈黙する。
だが、かつてイチローや福留がそうだったように、値千金の一振りでチームに勝利をもたらした。
決勝戦は、若武者らしいスイングを見せて欲しい。
ダルビッシュ有
チームの精神的支柱の役目を果たすのが、ダルビッシュ有である。
円陣の中心になり、ダルビッシュはチームメイトに声をかけた。
「宮崎から始まって約1ヵ月、ファンの方々、監督、コーチ、スタッフ、選手達で作り上げてきた侍ジャパン。控えめに言って、チームワークも実力も今大会No.1だと思います。このチームでできるのはあと少しで、今日が最後になるのは本当にもったいない。みんなで全力プレーをしてメキシコ代表をしっかり倒して明日につなげましょう。さぁ!行こう!!」
ダルビッシュの言葉に選手達は気勢を上げ、戦う男の顔になっていく。
史上最強と謳われる侍ジャパンには、“百戦錬磨のリーダー”ダルビッシュ有が欠かせない。
WBC 2023 史上最強「侍ジャパン」 パーフェクトデータブック