イチロー。
言わずと知れたプロ野球史に残るレジェンドである。
多くのファンを魅了してきたイチローだが、私は若い頃からどこか好きになれなかった。
記者やインタビューアに対する辛辣にして余りにも傲慢な態度に、たびたび不快感をもよおしたからである。
同時代の“ゴジラ”松井秀喜の謙虚さと穏やかな物腰とは、対極をなす存在だったといえるだろう。
だが、現役引退後のイチローは悪くない。
特に、性別の如何を問わず、高校生を中心に指導する姿には感銘を受けずにはいられない。
金言
数々の名言の中でも心に残るのは、指導した高校球児に向けた言葉である。
「野球で結果を残してくれたらとても嬉しい。でも、もっと嬉しいのはその先だと思う。自分はこんな大人になりました。そういう報告を是非聞きたい。野球をやってたからこそ、みんなと出会えた。人との出会いは奇跡なのだから…そういうものも大事にして欲しい」
私はこの言葉に、以前見たドラマを思い出す。
それは、久方ぶりに教師と若者が出会う話であった。
恩師は若者に語りかける。
「世の中にはたくさんの出会いがある。その中で、最も良い出会いは何だと思う?」
思いつかない様子の若者に、先生はこう言った。
「それは再会だよ。立派に成長した君を見て、私は心の底から嬉しい」
含蓄を含んだ温かい言葉に、若者は思わず感極まった。
私も今、子どもたちと関わる仕事に就いている。
様々な子どもたちと関わる中で、「この子はどんな大人になるのだろう」と思いを巡らすことがある。
イチローと同世代の私にはよく分かる。
イチローや先生が伝える「再会」の嬉しさ、素晴らしさ。
年を重ねるほど「人生で最良の出会い。それは再会である」という先生の箴言が身に沁みる。
高校女子野球へのリスペクト
高校野球といえば甲子園であり、選手は男子と相場が決まっている。
しかし少数ではあるが、額に汗し白球を追いかける女子もいる。
そんな彼女たちとの交流も、引退後のイチローのライフワークとなっている。
イチローは語る。
「僕は色々なステージで野球をやってきたが、高校女子野球ほど相手チームへの敬意を感じるものはない」
指導者の薫陶もあるのだろう。
しかし、彼女達はたとえ敵でも素晴らしいプレーには賞賛を惜しまない。
それも真剣勝負の最中でだ。
百戦錬磨のイチローも、こんな経験はしたことがないという。
アマチュア野球でも、とかく勝利至上主義が跋扈する風潮にあって、高校女子野球の精神に学ぶべきことは多い。
イチローにとって、プロでの野球人生は喜びより苦しみの方が圧倒的に多かった。
しかし、イチローは第二の野球人生で、野球の楽しさ素晴らしさを心ゆくまで味わっている。
まとめ
毎年恒例となるイチロー選抜と高校女子選抜との4度目の対戦が、2024年9月23日に行われた。
東京ドームでの開催とあって、あの松井秀喜も参戦する。
足を痛めながらも、最終打席では豪快なアーチをかけ、ゴジラ健在を見せつける。
その瞬間、イチローの笑顔が弾けると共に、目には光るものがあった。
痛い足を引きずりながらダイヤモンドを一周する松井を迎え、イチローは固い抱擁を交わす。
感動的な光景だった。
50歳の快音に3万人近い観客からの大歓声が鳴り止まない。
イチローと松井。
平成のプロ野球を牽引したスーパースターの競演に我々野球ファンだけでなく、相手チームの女子高生も生涯忘れ得ぬ思い出になったに違いない。