50歳の新人、先生になる 第19回「求めるもの」





これは50歳にして、これまで未経験の塾講師を志したアラフィフの体験談です。

講師として子ども達と関わる中で、気付いたことや所感を述べていこうと思います。

当記事が塾講師として奮闘している方や、学習塾に興味のある方の一助になれば幸いです。

オムライスの思い出

突然ですが、皆さんはオムライスが好きですか。
私は今でこそ大好物ですが、以前はそこまでではありませんでした。
むしろ、家で食べるときはチキンライスだけのほうが美味しく感じたものでした。

そんな私の価値観がコペルニクス的転回を見せたのは、大人になってからです。
それは職場の同僚に連れられて、洋食屋にランチに行ったときでした。
ステーキやハンバーグ等どれもが美味しそうで目移りする中、同僚のオススメはオムライスだというのです。
“肉至上主義”を掲げる私としてはいささか不本意ではありましたが、常連の彼の顔を立ててオムライスを注文しました。

待つこと10数分、胃袋がブレーキの壊れたダンプカーと化した私の前に到着です。
デミグラスソースがたっぷりとかけられた熱々のオムライスの食欲をそそることといったら…。
ひと口食べると、私はその日からオムライスの虜になってしまいました。
しかもサラダ・スープ、そして食後のアイスティまでが絶品なのです。
ご主人の手際の良いフライパン捌きと相まって、私はその店のファンになりました。

学習塾の記事のはずが、いつからグルメブログになったのかと思った方もいるでしょう。
本題はここからです。
その洋食屋はご主人と奥さんのふたりで営業していました。
前述したようにご主人が料理を担当し、奥さんは接客をしながら店をまわします。

ところが、ある時から奥さんの姿が見えず、代わりに若いパートさんが入るようになります。
それまではオーダーや席の案内など店の切り盛りを奥さんが一手に担っていたのですが、ご主人が客に対して座るテーブルを指示するようになりました。

店内は手狭なうえランチタイムは人気だったこともあり、いつも混み合っています。
奥さんは基本的に相席にはせず、他の席が埋まってから相席をお願いしてました。
ところが、ご主人は少人数の客には他の席が空いていても構わず、相席のテーブルに座るよう促します。

次第に客足が遠のき、最後にはパートの人も辞めてしまい、ひとりでは営業できず閉店となりました。
ご主人は腕利きの職人風で料理の腕は確かなものがあり、全体的に処理能力が高い様子が窺える半面、頑固さが滲み出る風体です。
そんなこともあり、お客さんがくつろげる空間よりも、少しでも効率よく回転できる差配を重視していました。
当然、自分だけでなく相手にも厳しく、その分パートさんに対しても高いレベルを求めているようでした。

客が求めるもの

一方、奥さんはお客さんを優先し、常におもてなしの心を忘れない気配りの人でした。
席の差配だけでなく、どんなに混んでいても水が無くなれば言われるまでもなく注ぎに来てくれます。
それも、いつも笑顔を絶やさずに。

私は気付きました。
ご主人と奥さんが揃っていたからこそ、この店は美味しい料理だけでなく、リラックスできる雰囲気があったのだと。
きっと、奥さんはお客さんが求めているものの中に快適な空間があることを知っていたのでしょう。
残念ながら、ご主人にはその視点が欠けていました。

さて、これを塾講師に当てはめると、どうなるでしょうか。
学力が高く、指導力もある講師は一般的には一流と呼べるでしょう。
ですが、生徒が求めているものや必要とするものが理解できなければ、本当の意味で良い講師とはいえません。

進学塾ならいざ知らず、私の勤める塾には様々な生徒がやって来ます。
5教科の合計点が100点にも満たない子もいれば、学年順位一ケタの生徒もいます。
当然、教え方や授業の進め方も異なります。
これを同じテキストを使用して行うのですから、工夫と引き出しが不可欠です。

目の前の生徒にとって一番効果的な授業とは…。
そんなことを考えるとき、ふと奥さんの接客を思い出すこの頃です。

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