50歳の新人、先生になる 第16回「常識を超えた受験生」





本稿は50歳にして、これまで未経験の塾講師を志したアラフィフの体験談です。

講師として子ども達と関わる中で、気付いたことや所感を述べていこうと思います。

当記事が塾講師として奮闘している方や、子を持つ親御さん達の一助になれば幸いです。

理解を超えた受験生

前回は英語が苦手な生徒に触れたので、今回は逆に驚異のセンスを誇る生徒を紹介します。

彼女の英語は、少なくとも私の理解の範疇を超えていました。
その生徒は自称、英語が不得意だというのです。
なるほど、たしかに英単語も文法も多くの課題を抱えています。
案の定、過去問を解かせると基本的な語彙や文法力を問う問題はからっきしでした。

ところが、多くの受験生が苦労する長文読解になった途端、なぜかスラスラ解いてしまうではありませんか!
本文の内容を尋ねると細かいところはさておき、大意はほぼ理解しています。

なぜ、こんな芸当が可能なのでしょうか。

驚異のセンス

不思議だったので、どのように読んでいるか詳しく尋ねてみることにしました。
やはり、単語の語彙力は相変わらずのため、分からない所も散見されます。
しかも、現在完了や関係代名詞などの用法も完全には理解できていない様子でした。
それでも、文が長くなればなるほど前後の文脈で、内容を推察できるそうなのです。

通常、次々と分からない単語が出てくると、読むほどに文意を捉えるのが難しくなるものです。
生徒によっては、たった一つの単語が分からなかっただけで、設問を落とすことさえあります。
よく単語は少々知らないものが出てきても、前後の文章で推察できるという人もいますが、私の経験上そんなものはほとんどの場合嘘っぱちだと感じます。
やはり受験英語では、単語や文法の知識が要となるのは間違いないでしょう。
にもかかわらず、彼女は読めてしまうのです。

彼女のセンスの高さは天性のものでしょう。
ですが、話していくうちに理由の一端が見えてきました。
英語と日本語では、単語の並ぶ順番が違います。
例えば「I play tennis in the park.」を和訳すると「私は公園でテニスをします」となります。
このように、後ろから訳すことが多くなるのです。
ところが、彼女は左から順番に、次のように訳します。
「私はテニスをする、公園で。」

このやり方は非常に理に適っています。
なぜならば、文章は洋の東西を問わず、左から順番に読むようにできているからです。
中学英語なら一文がそれほど長くないので、日本語の文法に合わせ後ろから訳しても支障はないでしょう。
むしろ多くの学生には、そちらの方が読みやすいに違いありません。

ですが、大学受験、特に難関校の入試ほど一文が複雑で長くなり、ときには数行に及ぶこともあるわけです。
これだけ長い文章をいちいち後ろから訳しては、こんがらがって何が何やら分からなくなるでしょう。
かなり英語ができる子でも、中学生で“左から順番に訳す”読み方を実践する者はどれだけいるか疑問です。
そして、そのほとんどが単語や文法をきちんとマスターしているのです。

翻って、彼女は単語や文法が苦手なことに加え、この自然な読み方を誰に教わるでもなくいつの間にか身につけていたというのです。
私からすると、まさに彼女は英語の天才だと思いました。

惜しむらくは、単語や文法の習得には全く興味がなく、志望する中堅校の合格ラインをキープすることだけを目指していたことです。
和訳の文章も美しい彼女のセンスならば、英語を生業にして人生を切り拓いていくことも可能だと思うのですが…。

つくづく…学力アップには才能だけでは事足りず、向上心が不可欠だと痛感した次第です。

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